超大作なのに、「オーランド・ブルーム主演」「リドリー・スコット監督の最新作」という以外、なんにも事前情報がなかった。行ってみたらそれは十字軍の映画で、しかも「十字軍に行ったキリスト教徒は、こんなにバカでした(バカな人もいました?)」という映画だった。何もいえないわけだといってしまえばそれまでなのだが、えらそな言い方かもしれないが、私はこの映画をここ(大メジャー劇場での公開)という形まで引っ張ってきたすべてのスタッフの労をねぎらいたい。この映画の配給は20世紀フォックスだが、フォックスといえば、アメリカ4大ネットワークの中でももっとも保守、右よりといわれる企業なのだもの。なんかこう、「うまく上司をだまして稟議を回した現場」みたいなものを感じる。今なお平和が訪れない、血まみれの聖地、エルサレム争奪をめぐる物語である。
歌手サラ・ブライトマンのアルバム「ハレム」などにも共通するが、ここに描かれているのはヨーロッパ世界から見た、エキゾチックな魅力をもつ世界としてのイスラムである。砂漠、月、勇気ある戦士と美しさと気骨を兼ね備えた女たち。そうだった、人間は、嫌いだけの存在を決して憎んだりしない、憧れと自分の嫉妬心を刺激される相手を憎むのだとあらためて気がつかせられる。 戦争シーンでは、キリスト教側とサラセン側が、注意深く対等に描かれる。キリスト教の十字旗が風にはためけば、サラセン側の月の旗も、それはそれは美しくはためく。 イラク戦争でキーワードとなった「大量破壊兵器」ということばだけど、大量破壊兵器が歴史上初めて登場したのは第1次世界大戦で、それによって、人はきわめてインダストリアルに殺されることになり、その結果、「家族が死んだ」という実感をともなうことができない遺族が続出した。(このあたりは映画『フェアリー・テイル』で、作家コナン・ドイルがオカルトに走った理由としてくわしく描かれている)。 それまで西洋にしてもアジアにしても、戦争というのは、一対一の名乗りあい、果し合いであり、それは、相手が殺人者であると同時に、弔う人であることを意味した。「なんのだれがし」という身元のはっきりした人間に殺されることによって、殺される側は、それなりの尊厳を保つことができた。 この映画では、戦争というのは名乗りあい、対峙することで、一種相手に敬意を表することが出来た時代の戦いを描いている。仔細では技術力によって大量破壊してしまう部分もあるのだが、和平の議論はトップ対トップによって行われ、戦いには常に宗教色=とむらい色があった。この時代、人はたとえ戦争であってもオートメーション的に死にはしなかったのだ。どうせ戦争で死ぬなら、こういう時代に死にたいなあ、などと私は思ったりした。 こうした背景をもとに、伝説の勇者(鍛冶屋の息子の貴種流離譚で、最後は鍛冶屋に戻る)の冒険物語が展開される。その最後は勝利ではなく、ひたすら市民の安全である。 当時のエルサレムを統治するラテン・ローマ王国の当主ヴォードワン4世が、「らい」だという設定で、彼は終始仮面で顔をおおっている。キリスト教、イスラム教双方の信仰の自由を認めたこの理知的な王がカッコいーなーと思ったら、私のお気に入り、エドワード・ノートンだった。さっすがー(←ウソウソ、気がつかなかったくせに)
by ropponguimovie
| 2005-04-21 00:48
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