教材は『ブリジット・ジョーンズの日記』と『やさしくキスをして』(ケン・ローチ監督、2005年夏公開)です。
先日、イギリスからの帰国子女の女性と話す機会がありました。彼女がいうには、 「私から見ると、ブリジット・ジョーンズって、うらやましいというと語弊があるけど、すごく贅沢な人に見えちゃうんですよ」 ブリジット・ジョーンズと弁護士のマーク・ダーシーは、「幼なじみ」だということになっています。作品の中ではお互いの母親が編んだ熊ちゃんの柄(雪だるまだっけ?)のセーターなんか着せられたりして、お互いに恥じ入ったりしている。でも、彼女にいわせれば、幼なじみの中に弁護士になる男がいるっていうことが、そもそも中産階級の証だというんですね。 日本だったら、あなたが、あるいはあなたの友達が弁護士と結婚すると言うのはありえないことではないけれど、イギリスでは、「弁護士の幼なじみがいる」コミュニティと「どこを探したって弁護士になる幼なじみなんかいない」コミュニティは、はっきり分かれている、と。 それをわからせてくれるのが、ケン・ローチの映画、とりわけ新作の『やさしくキスをして』です。この作品は一種のロミオ&ジュリエットで、男性はインド系の家庭に育ち、婚約者も親によって決められているような家庭です。白人の女性と付き合えば親が泣く、お姉さんの婚約話が破談にされる、そうやって、がんじがらめになってしまう。 しかし、一方、このインド系の男性と恋に落ちる白人女性は、カトリックだが夫とは別居中の身。地区の代用教員をつとめていて、正式教員に採用されるには、地域のカトリック司祭の推薦状が必要です。 2人は地域の慣習や宗教にがんじがらめにされます。でも、この共同体の中に「弁護士になるような幼なじみ」が出てくることは、決してないのですよね。 とっても狭い、もしかしたら狭くさせられた、出口をふさがれた世界の中で対立が起こっている。そう考えることは、この映画を何倍も痛ましくさせます。 一方、ブリジットの痛ましさは、「弁護士の幼なじみがいる」ような社会階層に生まれてはみたが、その階層にはその階層で、「女性はこーあるべき!」と周囲から求められる強烈な思い込みがあり、その思い込みにまったくついていけないことにあります。 私が思うに、その思い込みとは、「試行錯誤」いいかえれば「じたばた」が赦されないことだと思う。いつも、一発で決めなければいけない。 女性解放は進んだかに見えるけれど、その実、「キャリアある才色兼備の女性」が、「よい主婦になれる才色兼備の女性」にとってかわっただけ。 ブリジットの脂肪は、そんな女性達に課せられた狭い狭い枠から食み出す、いや、枠を壊して前に進むために必要なのかな、と思ってしまいます。
by ropponguimovie
| 2005-05-18 20:04
| 比較論やエッセイ
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