『ザ・コーポレーション』(おすすめ★)(問題作◆)

 久しぶりに試写を2回見た映画。また、10月5日、カナダ大使館にてジェニファー・アボット監督にインタビューもしました。記事に書けなかったことも含めて。

 この映画で一番驚くべきことは、製作資金のかなりの部分が、国(カナダ)の国立映画制作庁からの助成金であることだろう。こんなに企業名を実名でバンバン出して、その企業の違法行為や反人道行為をバシバシ告発しちゃう映画に、国ががっちりお金を出して、さらに日本での公開にあたってはカナダ大使館が公開を全面サポートなんて、アメリカ合衆国や日本じゃちょっと、考えられないもの。カナダというのは税金が高い分医療や教育が無料の、社会福祉の非常に行き届いた国なのだが、(ジェニファー監督によれば、スカンジナビア諸国に次ぐ二番目の社会福祉国で、国民も、その点に強い誇りとアイデンティティを感じているとのこと)「公」(決して「官」ではない)が、「私企業」に対して、しっかりとした力を持っている国だということを感じさせた。

 「映画」というよりは、「講義」のような、長い長い145分である。
 字幕が長い上、次から次へと証言者の顔が出てくるので、それが誰かというテロップを読む暇がない。映像にいくつか工夫はあるが、基本的には証言者の顔を映し出すのがメインのドキュメンタリーなので、眠いといえば眠い。しかし、その内容は、他ではつまびらかにされなかった、激しい145分である。ジェニファー監督は、記者会見で、「スタッフがカナダ人だということで、マイケル・ムーアのようなアメリカ人が作ったドキュメンタリーに比べればお行儀がいいといわれる」といっていたが、その冷静さ、緻密さがこの映画のウリだ。
 もらったプレス資料がめちゃくちゃ分厚いのだが、その裏に暗闇のなかでせっせとメモをとっていたらそれまたすごい量になってしまった。
 でも、そういうことを知っていたのと知らなかったのとでは、明日の生き方が違ってくる一本である。2004年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したのを皮切りに、世界の各映画祭で受賞した25の賞のうち、実に10個が観客賞なのだが、それは、「消費者賞」と言い換えてもいいのではないか。

「アメリカの衣料メーカーがエル・サルバドルに作った工場では、売値が174ドルの洋服に対し、その工賃が31セントである。その洋服のタグには、『売上の一部が、子ども達のために使われます』と書いてあるが、この洋服を縫っているのも13歳の少女なのである」
「公社より、私企業の経営の方が効率的であるという事実は、データによっては証明されていない」
「ロイヤル・ダッチ・シェルの会長、M、M・スチュワート氏は自宅前でデモを行った活動家達にお茶をふるまったが、ナイジェリアでシェルと結託した活動家8人は、軍事政権によって処刑された」
「モンサント社が開発した牛成長ホルモンはアメリカの乳牛の25%に使われているが、ヨーロッパ、日本では使用が許可されていない。投与された牛は乳腺炎を起こしやすくなり、その膿が乳に混入する。また、抗生物質も牛乳に残留し、乳がんや大腸がんにかかりやすくなるというデータもある。このような事実を報道しようとしたFOXテレビのリポーターは83回も記事を書き換えたあげく、解雇された」

 しかしまあ、このように取材に応じて画面に姿を現した企業トップはそれだけましなのかも。ジェニファー監督によると、取材を申し込んだ企業トップは60人ぐらいで、断ってきたのが40人ほど。その中にはビル・ゲイツや、英国石油のサー・なんとか(いいかげんで申し訳ない)も含まれているそうだから。

 記者会見の席では時節柄郵政民営化に関する質問も多く出たのだが、私は、この映画を見てから、privatization という言葉を「民営化」と訳したのは誰なんだろうと考えている。private = 私有、というか、その権利をもつ者以外は誰も立ち入れない領域、という意味なのだから、「民営化」はおかしい。「私企業化」とでも訳するべきだろう。(「民営」はそもそも「官営」の反対語であって、「公営」の反対語として使うのはおかしい)。「私企業化」より「民営化」の方が、ずっと口当たりが良い。誰かがその恣意をこめて訳したのだ。(話がそれるが、「ジェンダー・イクオリティー」が「男女同権」でなく「男女共同参画」と訳されたのは、「同権」では法案可決に必要な議員の票数を集められなかったからだといわれている。翻訳には政治的意図が加わるものなのだ)

 はてなダイアリーの町山智裕氏などは、同じ映画を見て「ブリトニー・スピアーズ他アメリカの少女達の乳がでかくなっているのは、モンサント社の成長ホルモンを与えた牛の乳を飲んでいるせいだ!」説を堂々とぶちかましておられたが。ありえない話ではない。

「参考になった!」
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by ropponguimovie | 2005-11-05 23:28
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