更新が1ヶ月以上も止まっちゃったのはこの映画のせいです。本当にもう、打ちのめされるほどのショック受けちゃって、なかなか感想が書けなかった。
『シティ・オブ・ゴッド』は劇映画ですが、ブラジルの貧困格差と少年犯罪の現実をドキュメント・タッチで描いた映画。その監督であるフェルナンド・メイレレスの新作である本作も、開発途上国で利益をあげようとする先進工業国の製薬産業のダーク・サイドをするどく告発しています。 ところが。その映画は、「ぜったいこんなの起こりえない!」っていう感じのラブ・ストーリーから導入されるのです。ふつうの恋愛映画見たって、こんなオメデタイ話はないです。あったその日に恋に落ちてベッドをともにしちゃって結婚ですって? 劇映画を通じて事実を浮かび上がらせる手法がお手の物である監督が、なんでこんな絵空事を撮っちゃったの? もしかして、ラブ・ストーリー描くのは下手なの? とか思いながら見ていたのです。 しかし、映画が後半に進むにつれじわじわ、そして映画を見終わってじわじわ、1ヶ月たってようやく、この二人のラブ・ストーリーがフィクションとしていかに描く価値のあるミラクルかってことが、よくわかってきたのでした。 夫・ジャスティンは英国外務省の一等書記官。政治家以上に国の利益を代表するような存在で、しかも代々がお役人というお家柄。アフリカの任地に赴いたって、庭作りと午後の紅茶を欠かしません。一方、妻テッサは、グローバリズムに反対する活動家。不正のタネをつかめば権力者に正面から立ち向かい、情報を得るためには身体を武器にすることもいとわない左翼の戦士。一緒に暮らしてたら、どうしたって合わないだろうに。そのうえ、イギリスは階級社会ですから、このふたりの結婚というのは、思想信条を超えた壁が存在するんですね。日本にたとえれば、天皇制に懐疑的なフェミニストと、元皇族で「万世一系の伝統」を論点に女性天皇に反対する元皇族が一晩で恋に落ちて結婚しちゃったぐらいのギャップがある。ね、ありえないでしょ? しかし、この物語はすべてこの大ミラクルファンタジーから始まるのである。製薬会社の重要機密をかぎつけた妻が殺されなければ、夫はそうした欧米の二重基準に目を向けることはなかった。そして、この夫が外務省一等書記官というキャリアをもってなければ、その事実を突き止める力はなかったのだ。このふたりのありえねー恋愛、が、アフリカで行われていた製薬会社の人権侵害を明らかにさせた。よく、子どものことを「愛の結晶」というけれど、その一連の結実は、あまりに違いすぎるふたりから生まれた強烈なハイ・ブリッドだったのである。妻テッサが、殺される直前に死産した、という事実は、「ふたりのあいだに生み出しえなかった愛の結晶」の明快な隠喩である。しかし、人の子の形でない愛の結晶を、妻の死後、夫が産み落とすことになる。 この映画を見て、価値観の違う人に対してオープン・マインドであることが大事かということを、まざまざと思い知らされた。子どもの誕生を待ち望みながら「子どもが生まれても庭たがやしてるんでしょ」「君こそ、子どもに『チェ』っていう名前つけるなよ」と冗談を交し合う場面は、屈指の名ラブ・シーンだと思っている。 現実に戻って、上記の続きで例えれば、左翼のフェミニストが元皇族に、「なるほどあなたは、本当に日本という国を大切に思っているんですね」といい、元皇族がフェミニストに「なるほどあなたも、人々の幸せを真剣に考えているんですね」というぐらいの互いの歩み寄りが必要ということなのだろう。想像しがたいなあ。でもきっと、だからイマジンがすべての始まりなんだ。Though you may say I am a dreamer. (今回の映画評は、トリノ五輪の開会式で平和を訴えるスピーチをしたオノ・ヨーコへのオマージュです。ずいぶん時間がたっちゃいましたが) 2006 年5月13日公開 レイチェル・ワイズが本作にてアカデミー助演女優賞受賞
by ropponguimovie
| 2006-04-07 22:11
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