2006年5月全週~6月第一週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『トランスアメリカ』★◆
 トランスジェンダーがが99パーセント完了して、あとは手術を受けるだけになった女性(見た目は男性)が、「いつか父親に会うのが夢なんだ」という実の息子と出会ってしまう、ロードムービー。

『ダ・ヴィンチ・コード』
 別項参照

『王と鳥』◆
 1980年代のフランスアニメ。宮崎駿をこの道に進むことを決意させたとされる作品。

『ママン』◆
 ジョルジュ・バタイユ原作。性的な魔物であることを見せ始める母親をイザベル・ユペールが、母親に翻弄される美しい息子を『ドリーマーズ』のルイ・ガレルが大熱演。ハリウッドではセットやVEで見せる人間の心の葛藤のメタファーを、フランス映画って全部俳優の肉体で見せるんだなあ、と、感心してしまった。が、宣伝の方の「いかがですか?」という質問に「面白かった!」と間髪いれず答えたのが、私が始めてだったらしい。

『笑う大天使(ミカエル)』

『ミュージック・クバーナ』★
 7月1日公開。
 邦題は『ブエナビスタ・ソシアル・クラブ、東京に行く』の方がよかったと思う。そういう映画。

『胡同のひまわり』★
 中国の実在の画家とその父親の親子鷹人生をじっくり描く(ちょっと長い)。最後は「父の詫び状」。

『ミッション・インポッシブル3』
 7月公開。
 なんか、あの音楽さえ聴ければ中身はどうでもいい気がした。
 とはいえ、仕事はきっちりされている。トム・クルーズのきっちりぶりには感動すらする。『007』は本当はこうなりたいんだろうけど、もうなれないねえ。

『太陽』★◆
 イッセイ尾形、昭和天皇を大熱演。昭和天皇が生物学者であったのは、彼が、人間的に一般人となんら変わりがないことを証明するためだとすると、ちょっとむなしい。最後に「私は自分が神であるという運命を拒否することに成功した!」と叫ぶラストも悲しい。


にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-06-04 01:00 | 見た映画一覧(簡易星取表付き)

『ダ・ヴィンチ・コード』★◆(5.20公開)

 「映画を見る前に原作を読んでおいたほうがいい」評がもっぱらで、私もこれには同意する。ただ、問題作であるゆえんは、映画だけでもじゅうぶんにわかる。その部分が見えてきたとき、映画『マトリックス』が見たくて見たくてたまらなくなった。

 最近、mixi内をうろついているうちに、本田健さんなどの成功法則に影響を受けている人たちのあいだで、映画『マトリックス』が熱狂的に支持されているという事実を知った。彼らにとって『マトリックス』は、求道の解説をした非常に実用的な映画として見られているようである。それは私にもわかる。「できようと思うな、できると知れ」「There is no spoon.」などのセリフは、私も好きだ。

 だけど、私に言わせれば、『マトリックス』をそのまま現実に持ち込もうとしている人たちって、「少年」すぎる。彼らの解釈に従っていくと、『マトリックス』には非常に都合の悪い箇所があって、その箇所は黙殺されてしまっている。そこを含めて実用化しようとしている人って、私はまだ見たことがない。

 その「非常に都合の悪い箇所」というのは、トリニティの存在である。彼らの論理に従っていくと「トリニティが愛した女は、救世主であると同時に、死が運命付けられる」という運命がすっぽり抜け落ちてしまう。あれをいったいどう解釈するつもりなのだろう? 彼らは、あの予言をどう生きるつもりなのだろう? 
 なんか、マトリックスを教科書にしている少年達には、もうちょっと萌え~な(童顔で従順な)ヒロインが似合う気がする。トリニティはもちろん、そういう女ではない。そうそう、トリニティってだからといってセクシーさ全開ってわけでもないし、本当異質なキャラクターである。

 しかし、『ダ・ヴィンチ・コード』で取上げられているマグダラのマリアを『マトリックス』のトリニティに重ねると、これが見事に重なるのだ。彼女が愛した男が、救世主の運命と、死の運命を担う。
 マグダラのマリアの死も、トリニティの死も、実に浮かばれないひっそりとした死。
 まあ、トリニティは妊娠も子を産むこともしませんでしたが…。

 『マトリックス』が神話の構造に忠実であるとしたら、マグダラのマリアがキリストの妻であったという関係の方が神話の構造構造に忠実ということになるかもしれない。いや、マグダラのマリアが娼婦だったか妻だったかは、結局どっちでもいいのだ。性的存在であれば。まあ両方とも大差ないというか。
 そして、トリニティやマグダラのマリアが最後にひっそりと死に、その子孫を未来につなげる、というのは、まさに「役割」なのだと思う。これは、「社会から期待されている役割(まさにジェンダー)」ともいえるし、ユングの原型に近いというか、「その役割を演じると世界がスムーズに流れる」ということでもある。

 フェミニストはしばしば「魔女」扱いされる。フェミ自身も、自らを「魔女」と名乗るのが好きだ。これは、フェミニストというのは、上みたいな神話の構造に気が付いてしまう女だからなのだろう、と、この映画を見てわかってしまった。ゲイ説もあるダ・ヴィンチの、それこそがまさに暗号? だったらできすぎですけどね。でも、面白いですね、この説。
 世界をうまく回らせるために、たいていの女というのは、ひっそり死ぬというミッションを遂行する。ところが、フェミは、うまく死ねない。それどころか、この、まさに「秘伝」を言語化し、世の中に言いふらして歩こうとする。「救世主」になりたい男の恨みを買うのは当然ではありませんか。
 おまけに、この救世主は魔女から愛されないと救世主になれないという二重構造が存在していて、だから救世主候補は魔女が怖いし、そんな怖い魔女なら殺してしまえ、俺は魔女に愛されなくても救世主になってやる、と。そういう一派が現れても不思議ではない。むりなんですけどね。

 反対に、妻にした女に死の接吻をされる運命を受け入れた男は救世主にもなれるし、もしかしたら「成功夫婦」というものにもまれるのかもしれません。

にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-05-18 23:59

ふたたびごめんなさい

 また一ヶ月放置してしまいました。
 やっと少し落ち着いてきたので、また少しずつ投稿していきます。
 これからは、公開時期に合わせてアップするなど、見やすく工夫していきます。

 おかげさまで、私のもう一つのブログがとても盛り上がっています。
 よかったら、そちらも遊びにきてください。

 ISL・六本木だより

 ブログ村への投票も嬉しいです。
にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-05-09 13:02 | 比較論やエッセイ

ごめんなさい

 1ヶ月以上もこちらのブログを放置してしまい、たくさんのTBにお返しができなくてすみませんでした。
 これからも少しずつ自分の視点で映画を分析、紹介していきたいと思っています。
 よろしくお願いします。
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-04-07 22:14 | 比較論やエッセイ

『ナイロビの蜂』★◆

 更新が1ヶ月以上も止まっちゃったのはこの映画のせいです。本当にもう、打ちのめされるほどのショック受けちゃって、なかなか感想が書けなかった。

 『シティ・オブ・ゴッド』は劇映画ですが、ブラジルの貧困格差と少年犯罪の現実をドキュメント・タッチで描いた映画。その監督であるフェルナンド・メイレレスの新作である本作も、開発途上国で利益をあげようとする先進工業国の製薬産業のダーク・サイドをするどく告発しています。
 ところが。その映画は、「ぜったいこんなの起こりえない!」っていう感じのラブ・ストーリーから導入されるのです。ふつうの恋愛映画見たって、こんなオメデタイ話はないです。あったその日に恋に落ちてベッドをともにしちゃって結婚ですって? 劇映画を通じて事実を浮かび上がらせる手法がお手の物である監督が、なんでこんな絵空事を撮っちゃったの? もしかして、ラブ・ストーリー描くのは下手なの? とか思いながら見ていたのです。

 しかし、映画が後半に進むにつれじわじわ、そして映画を見終わってじわじわ、1ヶ月たってようやく、この二人のラブ・ストーリーがフィクションとしていかに描く価値のあるミラクルかってことが、よくわかってきたのでした。

 夫・ジャスティンは英国外務省の一等書記官。政治家以上に国の利益を代表するような存在で、しかも代々がお役人というお家柄。アフリカの任地に赴いたって、庭作りと午後の紅茶を欠かしません。一方、妻テッサは、グローバリズムに反対する活動家。不正のタネをつかめば権力者に正面から立ち向かい、情報を得るためには身体を武器にすることもいとわない左翼の戦士。一緒に暮らしてたら、どうしたって合わないだろうに。そのうえ、イギリスは階級社会ですから、このふたりの結婚というのは、思想信条を超えた壁が存在するんですね。日本にたとえれば、天皇制に懐疑的なフェミニストと、元皇族で「万世一系の伝統」を論点に女性天皇に反対する元皇族が一晩で恋に落ちて結婚しちゃったぐらいのギャップがある。ね、ありえないでしょ?

 しかし、この物語はすべてこの大ミラクルファンタジーから始まるのである。製薬会社の重要機密をかぎつけた妻が殺されなければ、夫はそうした欧米の二重基準に目を向けることはなかった。そして、この夫が外務省一等書記官というキャリアをもってなければ、その事実を突き止める力はなかったのだ。このふたりのありえねー恋愛、が、アフリカで行われていた製薬会社の人権侵害を明らかにさせた。よく、子どものことを「愛の結晶」というけれど、その一連の結実は、あまりに違いすぎるふたりから生まれた強烈なハイ・ブリッドだったのである。妻テッサが、殺される直前に死産した、という事実は、「ふたりのあいだに生み出しえなかった愛の結晶」の明快な隠喩である。しかし、人の子の形でない愛の結晶を、妻の死後、夫が産み落とすことになる。

 この映画を見て、価値観の違う人に対してオープン・マインドであることが大事かということを、まざまざと思い知らされた。子どもの誕生を待ち望みながら「子どもが生まれても庭たがやしてるんでしょ」「君こそ、子どもに『チェ』っていう名前つけるなよ」と冗談を交し合う場面は、屈指の名ラブ・シーンだと思っている。
 現実に戻って、上記の続きで例えれば、左翼のフェミニストが元皇族に、「なるほどあなたは、本当に日本という国を大切に思っているんですね」といい、元皇族がフェミニストに「なるほどあなたも、人々の幸せを真剣に考えているんですね」というぐらいの互いの歩み寄りが必要ということなのだろう。想像しがたいなあ。でもきっと、だからイマジンがすべての始まりなんだ。Though you may say I am a dreamer.

(今回の映画評は、トリノ五輪の開会式で平和を訴えるスピーチをしたオノ・ヨーコへのオマージュです。ずいぶん時間がたっちゃいましたが)

2006 年5月13日公開
レイチェル・ワイズが本作にてアカデミー助演女優賞受賞

にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-04-07 22:11

『嫌われ松子の一生』★◆(ちょっとネタばれ)

林真須美と東電OLと騒音おばさんと、ウィークエンダーで取上げられそうな
「元ソープ嬢殺害」を足したような女を中谷美紀が大熱演。
原作はキリスト教の影響を受けているのかな。
タイトルは『無法松の一生』中身は『女の一生 キクの場合』(遠藤周作)
をほうふつとさせる。
マザー・テレサの言葉も思い出された。
「愛の反対は憎しみではない、無関心である」
だから、あんなに嫌われ、いじめられた松子は、彼女をいじめた人たちから
殺されたわけではなかった。
彼女に憎しみさえ抱かなかった人によって殺されたのだ。

2006年5月13日公開

にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-03-10 12:02

2006年2月4~5週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印


『ぼくを葬(おく)る』
フランソワ・オゾン最新作。
以前のような「あっ」と驚かせるストーリー展開はなく、
むしろ、定石どおりの展開の中で各シーンを細やかに描く。
っていうか、みんな、彼のこういう部分(美しくゲイを描く)を期待していた気が…。
うつくしーわよー。

『イーオン・フラッグス』□
ハリウッドの、コミックの女性ヒロインのキャラクター造詣の浅さは相変わらず。
ほんとになんとかしてほしい。

『レント』★
ブロードウェイ・ミュージカルのキャストをほとんどスクリーンに招いてのつくり。
めちゃめちゃ歌がうまい。だって、氷川きよしの歌きいてるときみたいに
胸がすっとするんですもの。サントラがお気に入りで、よく聞いてます。

『嫌われ松子の一生』★◆
別項参照
5月13日公開


『プラハ!』★

にほんブログ村 映画ブログへ
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-03-10 11:43 | 見た映画一覧(簡易星取表付き)

2006年2月第3週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『ガーダ』★◆
 別記事参照。

『青いうた ~のど自慢青春編~』
 63年生まれの金田敬(さとし)監督が劇場用第一作として撮った、『のど自慢』の続編にあたる作品。

『ファイヤー・ウォール』★
 ハリソン・フォード、ポール・ベタニー主演のサスペンス。
 いまどきの銀行強盗は、金庫じゃなくてコンピュータハッキングによって金を盗む。銀行のセキュリティ・システムを壊すためには、セキュリティ担当者を家族を人質にとって脅せばいい…というお話。
 本気で、銀行のセキュリティ・システム担当者にはなりたくない、と思った。

『バイバイ・ママ』
 ケヴィン・ベーコン監督。息子を溺愛するゆがんだ母の愛の話。母親がかなり怖い。

『ククーシュカ ラップランドの妖精』★◆
 別記事参照

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-18 13:13

『ククーシュカ ラップランドの妖精』★◆

チラシに写っている子供の写真とか、ラップランド(フィンランドの最北地方)とか、妖精とか、といったものから、とてもイノセントな癒しの物語を想像していたのに、とんでもない工口工口映画だった(笑)。その工口が、男女の情愛ということを越えて、そこから生み出されていく生命力につながっていくのがすばらしい。第二次大戦中のドロップアウト兵(脱走兵ではなく、怪我をして地元民に助け出されたり、リンチで殺されかかったのを逃げ出したり)という、破壊を背負ったキャラクターたちの話であるので、よけいに意味がある。

 夫を兵隊にとられた留守を守り、ひとりで小さな農場(トナカイを飼って魚をとる自給自足の暮らし)を営む女性、アンニがふたりの負傷兵を助ける(ロシア人とフィンランド人。ちなみにフィンランドはソ連に侵攻されて独立戦争として第二次世界大戦を戦っているので、便宜上枢軸国側に入ってしまう)。「自然とともに暮らす、素朴な女性」「戦争を嫌い、敵味方なく助ける民間人…」といった姿をイメージするが、民俗衣装を身に着けた農民の女が男を見て最初に言うことは、「いい男ね。夫が出て行ってから、4年間ご無沙汰なの」「ロシア兵を引っ張って運んだだけで、身体が熱くなってしまったわ」。彼女のセックスアピールは、素朴かつまっすぐなのだ。大地から沸きあがる感じで、やがてそれが、ふたりの男の小さな火種になってしまう。

 上記にも書いたが、フィンランドは第二次大戦で一度は中立を宣言、しかし、ソ連の侵攻を受けたところから、便宜上ドイツと足並みが揃ってしまったため、枢軸国側に色分けされてしまう。しかし、国内の反戦ムードは強く、映画の中の負傷兵ヴィエッコも、学生上がりの徴兵組で、早く帰りたくてしょうがない。しかし、ロシア軍の下士官であるイヴァンは、ヴィエッコがどんなに説明しても、「ナチの一味」に見えてしかたがない。この不信感が、悲劇につながっていく。

 衝撃の(少々非現実的な)ラストは、しかし意味深長だ。世界平和のためには、一夫一婦制はだめ! もちろん一夫多妻もだめ! 男が、このような映画のラストのような状態を目の当たりにしたとき、武力衝突の可能性って、格段に減るんじゃないの。だって、下手したら自分の子供を殺すことになりかねないから。

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-18 12:53

『ガーダ』★◆

 「古居みずえ第一回監督作品」という情報だけで作品を見たとき、古居さんって、もっと若くて怖いもの知らずでガンガンつき進んでしまうタイプのビデオ・ジャーナリストかと思った。映像がとてもみずみずしく、また、主人公のガーダと視線が同位置にあったから。でもそうではなかった。古居さんは1948年生まれで、1988年にパレスチナで取材を始めたとき、すでに40歳だった。37歳のときに原因不明の関節リウマチに襲われ、1ヵ月後には歩行器なしで動けなくなった。その後、投薬したクスリが奇跡的にきき、回復したことから、「一度きりの人生で、何かを表現したい」と、OL生活からジャーナリストに転身する。

 この作品では、パレスチナの難民キャンプに育った女性、ガーダの人生をおいながら、カメラの前に立つガーダと、カメラを回す古居監督との心のケミストリーが映画の中に写し取られている。女性ジャーナリストであるミツ(古居監督のこと)の前でベールを脱いだガーダは、心のベールもぬいだ姿をミツに見せる。「伝統的な生き方はいや。進学したかったのに、女性ということであきらめざるをえなかった…」やがてガーダは結婚するが、「初夜の晩に、親戚一同に自分が処女であることを証明しなければいけない」という慣習を拒んで、夫と新婚旅行(慣習にはない)に向かう。当時、イスラエル・パレスチナの和平を信じていたガーダ。しかし、その後第2次抵抗運動が勃発。ガーダの親戚の少年も殺され、家々も破壊される。ミツと友情を深め合ったことで、ガーダの怒りや悲しみは、「私もまた、この事実を記録したい」という具体的な目標に変わる。ガーダは生き残ったお年寄りたちから、戦争の歴史の聞き取り調査を始めるのだ。

 地味な作品だが、写し取られているのは、世界でもめずらしい(これからも見ることはないかもしれない)貴重な映像である。イスラムの女性達がベールを脱ぎ、本音の姿を見せ始める。それは、ビデオ・ジャーナリストという職業的な技量を超えた、古居監督の人間的な技量と関わった成果だろう。「私はあなたが大好きです」。映像の最後にこうしたガーダのビデオレターが流される。ガーダの心からのメッセージに、胸が熱くなり、試写室に拍手がわいた。

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-18 12:15

2006年2月第2週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『ニュー・ワールド』★◆
感想はこちら

『雪に願うこと』

『ブロークバック・マウンテン』

『フープ・ドリームス』
(旧作、スティーブ・ジェイムズ監督『スティーヴィ』記事執筆のため)
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-11 00:22

2006年1月第5週、2月第1週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『かもめ食堂』
 群ようこ原作を、『バーバー吉野』の荻上直子監督で映画化。
 小林聡美、片桐はいり、もたいまさこが、フィンランドで築くシスター・フッド。

『プロデューサーズ』

『アンリ・カルティエ・ブレッソン 瞬間の記憶』★
 2004年物故、20世紀最大の写真家といわれたアンリ・カルティエ・ブレッソンが、93歳になって初めて出演したドキュメンタリー。(それまで「撮影の妨げになる」と、人前に出ることを徹底して避けていた)
 すべての写真があまりに素晴らしすぎて、写真をほめているのだから映画をほめているわけではないような気がするが、やっぱりすばらしい。
2006年春、ライズX他全国公開

『送還日記』★◆
 2004サンダンス「表現の自由賞」受賞。韓国インディの王、キム・ドンウォンがおった、「元」北のスパイ(みな南で20~30年服役したのち、韓国に暮らす)人々が、北に無条件送還されるまでの日々を描く。私が今まで鑑賞した中で群を抜く、試写室の熱気だった。
3月上旬 渋谷シネアミューズ他にて公開
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-11 00:19

『ニュー・ワールド』★◆

 ひゃーびっくりした。最初の水辺のシーンから、最後の木から実が一つ、ぽとりと落ちるシーンまで、まったくスキがありません。終わったあと、思わず拍手しちゃいました。

 けむくじゃらのコリン・ファレルが、新人女優でアメリカ先住民の血をひく15歳、クオリアンカ・キルヒャーを抱きしめている招待状を見たときは、正直、「キワモノ」という気がして、行くのをためらったのです。実際、完成披露試写だというのに、ピカ2がうまらないほどのお客さんの少なさだったし。ディズニーが作ったのがそんなに昔じゃない(10年前ですね)ポカホンタスの話だし。

 でも、行った人は『シン・レッドライン』のテレンス・マリック監督に期待して行ったのだろうし、実際、期待以上でした。せこい優越感なんですが、今日、ピカ2で見てよかった。これを逃すと松竹の試写室ということになるのだけれど、松竹の音響がいいとはいえない(おまけに段差が少ないため、実にしばしば前の人の頭でスクリーンが見えない)試写室じゃなくて、劇場で堪能というのは「あたった!」という感じでした。

 他の仕事との兼ね合いから、映画に全然集中できない日々が続いていたのですが、これはもうすみからすみまで見尽くしたという満足感がありました。

 映画の2つの文化を対立させるダイナミックな構成力、細かい画面への美意識、セリフの美しさ、音楽、男と女の愛し合い方(肉体的な触り方も含む)、日本の小泉堯史監督をほうふつとさせる、自然美の切り取り方。とくにすごいのが鳥の声で、最後のスタッフ・クレジットにこれをかぶせているおかげで、いつまでも聞いていたくなります。今のところ、今年のナンバー1です。

 

GW公開
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-02-06 23:48

2006年 1月4週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『夜よこんにちは』★◆
 イタリア、マルコ・ベロッキオ最新作。
 1978年3月16日 イタリアの極左集団「赤い旅団」によって起こされた、当時のアルド・モロ首相誘拐、監禁、殺害事件を描く。
 昨年までは911の事件やアメリカへの直接のカウンターとなる作品が多かったが、『ミュンヘン』を筆頭に暴力の連鎖にスポットを当てた作品にシフトしてきているように思う。本作もその中の秀作。

『トカゲ女』□
 ホラーは、ときどき笑いをとったほうが、映画としては上質なのか?
 なんか、とんでもない作品でした。
 ちなみに、本作の本当のモデルは「トカゲ」ではなく「ヤモリ」で、タイには人に食いつく凶暴なヤモリが本当にいるんだって。事前にそれを知っていれば、もう少し怖かったかな?
 2006年4月 シネセゾン渋谷にてレイトショー

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』★◆
 別項参照。
『サウンド・オブ・サンダー』

『コルシカン・ファイル』

『グッド・ナイト アンド グッド・ラック』★◆
 テレビ・キャスターを父に持つ、ジョージ・クルーニー監督作品。
 1950年代、赤狩りの急先鋒、マッカーシーに正面から対抗したテレビ・キャスター、エド・マローの姿を描く。
 マッカーシーの論法が、「国への忠誠、貢献、愛国心」であることが、現代にも通じて興味深い。この言葉が錦の御旗となり、市民の、国に対する監視、チェックの機能が機能停止に追い込まれていくのだ。
 2006年5月 全国TOHOシネマズで公開

 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-28 16:26

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』★◆

 デヴィッド・クローネンバーグが「ふだんは家族の映画なんか撮らないんだけど」といって、でも彼が敢えて撮ったから、この映画は、類を見ないものになったと思う。『ミュンヘン』『夜よこんにちは』同様、これもまた、「葛藤解決手段としての暴力」について切り込んだ秀作。
 マフィアから足を洗い、過去を隠して家族を作り、小さなレストランを経営する男が、ある日、店を強盗に襲われてしまう。男は襲撃してきた強盗を、つい過去のクセが出て(?)正確に(?)射殺してしまったため、「町のヒーロー」として報道されてしまう。そのオンエアを見た昔の宿敵が、彼のいどころを突き止め、追いかけてきてしまうのだ。
 一方で、平和的な父を見習い、学校でいじめられても決してやりかえさなかった息子は、父親の素性がばれるに従い、いじめっこに報復するようになる。父が彼をしかっても、息子はもはや耳を傾けない…。

 ヴィゴ・モーテンセン演じる元ギャングの男。監督の演出手腕だと思うが、彼が強いギャングだった理由が、「武装していたから」ではなく「真の意味で強かったから」というのがつぶさに描かれ、いみじくかっこうよい。最初の強盗シーン。銃をつきつけられても、手に持ったコーヒーサーバーを相手にぶちまけて攻撃をかわすところなんか、その面目躍如だ。この一シークエンスでは、たとえ戦争になっても、いあ、命のかかった状態だからこそ、知恵や体力、豊かなアイディアが、武装の量に勝ち得ることを描いてしまうのだ。(「宮本武蔵」とかに影響されているのかな? 私はそういう方面、よくわからないのだけれど)
 他に、もう年若くない妻が、高校時代のチア・リーダーのコスチュームを着て夫を挑発し、夫がそれにそそられてベッドに押し倒してしまうシーンなどその後の展開を考えると、実に泣かせる。このばかっぽい愛の営みは、家族が信じあえるというゆるぎない幸せを築いていたからこそ、互いにバカも見せ合えるという姿を、みごとに描写しているのだ。ギャングの敵に心理的にゆさぶられ、夫に疑念を抱き始め妻は、もはや夫の前でチア・リーダーになることはできないのだ。

3月11日、東劇ほかで全国公開
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-28 16:22

2006年1月 第3週に見た映画

 (注)ここのところ急激に精神的な変化があったせいか、何を見てもほとんど作品に集中できない週でした。
 よって、今回は評価のしるしはつけていません。

『ナルニア国物語 ライオンと魔女』

『変態村』

『リバティーン』

『ダンサーの純情』
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-28 15:28 | 見た映画一覧(簡易星取表付き)

『スタンドアップ』

 社会新報(社民党の機関紙)に、「今年の新春映画は社会派映画の当たり年」という記事を書いたのですが、そのなかで取りあげた『スタンドアップ』に関して、文化面の編集さんから
「すみません、政治面のほかの記事ですでに取り上げてしまったので…。そこをボツにして、他の作品と入れ替えてください」と泣きが入りました。

 そのぶん、飛び込みで入ってきた『ミュンヘン』入れたからよかったんだけど、悲しいので\;;/ 、削除しちゃった部分をここに転載。

:::::『スタンドアップ』は、1989年、実際にミネソタ州で起こった、全米の企業にセクハラ防止規定が作られるきっかけとなった訴訟事件を題材にした作品。鉱山というぎりぎりの生活がかかった職場にも浸透し始めた女性進出は、男性たちの雇用確保とプライドを無意識のうちに脅かし、彼らはすさまじいばかりの女性いじめに転じるようになる。職場の環境改善をめざして会社を訴えた主人公ジョージーは、父親のわからない子を抱えたシングル・マザーで、男性はもちろん、女性達や家族からも孤立無援の状態に陥る。しかし、「女性達を貶めるということは、人間として自分を貶めているのと同じこと」…。労働者という点では同じ地位にある男性達が、そのことに気がついた時から、物語は、希望の光がさす方向に向かって進んでいく。『モンスター』で連続殺人犯を演じ、オスカーを手にしたシャーリーズ・セロンの再びの熱演も光る。

 上でも述べているけど、この映画が、「フェミ嫌いもうならせるフェミな映画」である理由は、このセクハラ事件を、社会的にもっとも弱いものと、2番目に弱いものとの葛藤として事件が起きたということをきちんと描いている点だと思う。
 1989年の日本での機会均等法は、バブル景気も手伝って、男性によって独占されていた所得階層の上の部分に、女性が切り込んでいく、という部分がクローズアップされていた。しかし、この映画では、つらい労働と劣悪な環境、不安定な賃金に対して、「誇り」という鎧を着てしまうことで、なんとか日々の糧を得る仕事に甘んじてきた肉体労働者たちを、女性進出がまともに刺激してしまった事情をきちんと描いている。「男による女への搾取」の前に、 女をいじめたくなるような彼らへの待遇の悪さが描かれているのだ。
 だから、男達が、「経営側が女を使い捨てのように扱うということは、自分達もいつそう扱われるかわからない」ということに気がついたとき、この物語は、急展開を見せていく。

 その経営側の訴訟を請け負ったのがやり手の女弁護士で、でも、その女弁護士が最後に、経営陣に向かって、「人権が守れてこそのアメリカです」なんてことをいわせてしまう、小さなどんでん返しが芸が細かい。

 それにしても、女が放水ホース握っただけで「にぎるのがうまい」って野次を思いついてしまう思考回路って、いったいどうなってるんでしょうか。
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-23 11:04

2006年1月第1週~2週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『ジョージ・マイケル 素顔の告白』◆
 別項参照
 
『プロミス』

『シリアナ』◆

『ウォーク・ザ・ライン』★

『ミュンヘン』★◆
 別項参照

『レアル・ザ・ムービー』

『マンダレイ』◆
 ランス・フォン・トリアー 最新作

『エミリー・ローズ』
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-14 15:29

『ミュンヘン』★◆

 「これを描くスピルバーグ監督、すごいな」というのが最初の感想だった。映画は、1972年ミュンヘンオリンピックで起きた、イスラエル選手を狙ったテロ事件を描いている。イスラエル政府はテロを起こしたパレスチナ組織「ブラック・セプテンバー」への報復を決断。エリック・バナ演じる下士官が遂行していくその任務は、新たな暴力の連鎖を引き起こす…というストーリーだ。

 なぜ「すごいな」と思ったかというと、ユダヤ人であるスピルバーグ監督が、「ユダヤ人だって加害者になる」という映画を撮った、と思ったから。私は「報復」を「報復」と受け取り、それが「正当」とも、ましてや「次なるテロの予防」とは思えなかった。実際、映画は、この報復が次のテロを予防することはできなかったという結末に達する。

 映画のラスト・シーンは、任務を終えた、エリック・バナ演じる下士官が、ニューヨークの浜辺でかつての同僚と話し合うシーンで終わっている。それは1980年ごろで、ラスト・シーンの背景に写るのはNYの街の中にCGで作りこまれたWTCである。なんか、今だけが「危機管理」が必要なようにいわれるけど、報復に続く報復、市民が血で巻き添えになることは、ずっと前から行われてきた。とくにヨーロッパでは。

 私が6歳のときのミュンヘン・オリンピックの記憶というのは、どうしても「男子バレーボール」と「水泳の青木まゆみ選手」しかない。テロの報道が、日本で大きかったのか小さかったのか、でも、その後の選手派遣の問題などを考えると、どうも「他人事」だったのではないか、という気がする。しかし、何しろ、ミュンヘン五輪というのは、今はなき「西ドイツ」で行われた五輪なのだ。ベルリン五輪の忌まわしい記憶を消そうとしたドイツでの五輪で再び痛ましい事件が起きた。まだ「ステート・アマチュア」という言葉も全開だった。

 なんか、あの頃のオリンピックって、あきらかに「西対東の紅白歌合戦」の様相があった。その構造が崩れた後、その後、オリンピックが「国のもの」から「企業のもの」になっていくのは、ご存知の通りだ。

 この映画をめぐってすでに議論がかまびすしい。パレスチナ側からも、イスラエル側からもすでに批判が出ている。(ニュース参照)実は、それほどの映画へのリアリティを与えているのは、主演のエリック・バナである。
 エリック・バナはその地味さ加減が災いして、スター・カリスマを得ていなかったが、今回は、彼の「地味かつまじめ、かつ遠い存在ではない」キャラクターがぴたりと当たった。

(たぶんまた後で追記します)
「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-14 15:18

『ジョージ・マイケル 素顔の告白』◆

 2006年1本目、劇場で見ました。悲しいぐらい、お客さんが入ってませんでした…。

 その「お客さんが入っていない」という状況が、ジョージ・マイケルをドラマにしているゆえんだと思います。
 映画の中で、デビュー直前、何も知らない新人ミュージシャン・ジョージが、レコード会社とのほとんど人身売買みたいな契約書にサインさせられていたことが明らかになります。
 WHAM! を組んでいたとき、ジョージは、ポップで、何も考えていないように見える、アイドル・スターでした。もしも彼が最初から反骨の歌手だったら、後からここまでひどい扱いをメディアから受けるようにはならなかったかもしれません。しかし、ジョージは、「途中から」態度を変えました。レコード会社との裁判は、最初は何でも夫のいうことを聞いていた妻が「途中から」自己主張をし始めたのと同じ事態です。しかし、その結果がこれです。海外メディアでの最近の彼の扱いって、もはや和泉元彌的。彼がゲイであるという報道は、エルトン・ジョンがゲイであるという報道よりずっと揶揄に満ちているし、彼が政治的なプロテスト・ソングを歌えば「おまえなんかの出る幕か」扱い。スティングがプロテストソングを歌ってますます株が上がるのとは対照的です。
 ジョージは、もう、誰からも持ち上げられない存在になっていて、それはこの観客数とも間違いなく関係しています。

 でもね。ジョージ・マイケルのことを知らない若い人でも、「ラスト・クリスマス」を聞いたことがない人がいるでしょうか。「ケアレス・ウィスパー」は? ジョージは、死ぬ前からすでに伝説になっているミュージシャンです。彼を知らない人、彼に興味がない人でも、みんな彼の音楽は知っています。こういのを「一流のミュージシャン」といわずして、なんというのでしょうか?

 映画で流れる彼の音楽を聴きながら、私はずっと、「私はジョージ・マイケルの音楽が本当に好きなんだなあ」と思ってました。思春期の頃、いろいろな音楽がはやって、ごく普通に「ああ、こういうのが流行だから聴いてみようか」と思って聴いたり、その行為のことを「ファンになる」と呼んだりしてました。でも、彼の音楽は違った。感性で、昔も今も「好き!」っていえます。ただ、顔で言うとアンドリューのほうが好きだったけど(正直)。

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2006-01-14 14:07

2005年12月19日~12月28日までに見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『忘れえぬ想い』
 セシリア・チャン主演のヒューマン・ドラマ。
 2006年新春、渋谷シアターNにて公開

『ディック&ジェーン 復讐は最高!』★◆
別項参照。

『アブノーマル・ビューティ』
香港の姉妹ユニット「2R」を主演に、パン・ブラザースが製作。
パン・ブラザースって、耽美派ですよね。物語のスケールは
大きくないけど(←そのわりに謎解きの伏線を全然覚えてなかった)
テンポ良く怖く、美しい。


『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』◆
 トミー・リー・ジョーンズ初監督作品。主演もしている。
 本人はこの作品を「カウ・ボーイ・ストーリー」ととらえられることには違和感を感じているようだが、私はこうした「カウ・ボーイくずし」の物語が出てきたことに興味を感じた。
 12月17日公開の『ダウン・イン・ザ・バレー』もやはり「カウ・ボーイくずし」なのである。「くずし」というのは、本来あったカウ・ボーイの姿をどこかで崩すことで「人間の姿ってこんなものだよ」ということを描いた作品のこと。今のところ二つしかないんですけどね。
 あの暑さの中を死体を馬にくくりつけて何日も運ぶのはちょっと無理な気がするが…。
 2006年春、恵比寿ガーデンシネマ他で公開

『うつせみ』★
 キム・ギドク最新作。彼の作品なのに◆をつける必要がないほど正統派にまとまっている。今までの中で一番好きだった。
 どうも彼は違う時代に突入したらしく、この映画にはかつての激しさはない。むしろ感じさせるのはせつなさにユーモア感覚を織り交ぜる懐の深い見方だ。
 物語が奇をてらうことなくシンプルになったのもかつてと違うところ。「あっ」といわせるわけではない物語に、ただ、その語り口を細かく細かく彼の美意識を積み重ねてしっとりと見せている。
 なぜか、「田辺聖子の短編小説」と非常に似たものを感じさせた。同じことを感じる人がいるだろうか。
2003年3月 恵比寿ガーデンシネマにて公開

『好きだ』
 「資生堂マシェリ」「爽健美茶」などのCMを手がけた石川寛監督による最新作。
 現場では台本なしで、キーワードとシチュエーションだけが渡され演技する、という、撮影の方法らしい。プレスを見ると、何人もの出演者が「撮影の間は、相手役に恋をしていた」とコメントしている。
 海外では評価されたようだが、私には「微妙」が「薄味」と感じてしまった。よく、西洋人(舌のセンサーの感度が日本人より一桁低いらしい)が、「白米には味がない」といったりするが、それと似たようなものか?
 2006年3月渋谷アミューズCQNにて公開

『ジャーヘッド』★◆
 15年後に語られる湾岸戦争の事実。帰還兵の手記を、サム・メンデスが映画化。
 重厚な問題作だが、「結局アメリカは最後の最後まで商売したいんじゃないの?」などと思ってしまうぐらいしっかりした作品になっている。なんか、ローストチキン食べた後の骨でとったスープが頭の中に浮かんでしょうがなかった(うまい、という例えですよ、前日そうやって食べたんですから)。
 なお、この映画で重大な思い違いに気がついた。ジェイク・ギレンホールの瞳はブラウンだとずーっと思い込んでいたのですが、トビー・マクガイアと同じブルーでした。彼にもスパイダー・マンをやる資格はあります。「ジャーヘッド」という、つぼみたいに見える軍隊独特のヘアスタイルだから、よくわかったのです。
後日追記予定。

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-28 23:12

『ディック&ジェーン 復讐は最高!』★◆

 12月24日公開…って、時期が悪すぎる。ジム・キャリー、今年も割り食ってるなあ。内容だって、タイトルじゃぜーんぜん想像つかない。なにしろ、アメリカ屈指の消費活動家、ラルフ・ネーダーがカメオ出演だよ! 『ザ・コーポレーション』をハリウッド的に作ったらこうなるのでした。
 
 つまり、「肥大化した企業の欲望を笑え!」ってことです。ジム・キャリーは、まさに「姉葉」的な役回り。企業の広報部長として、経済番組で会社のいいところをしゃべりまくっているそばから、その会社の株は暴落。それは、自社株をもっていたオーナーが売り抜けていたから。翌日、会社は倒産。オーナーは一文も損せず(つーか大もうけ)、社員だけが割をくって失業。オーナーのやったことは完全に合法で手が出せない。自己責任社会のアメリカでは、個人年金を自社株にしていたりすると大変なことになる…。

 タイトルに「復讐は最高!」とありますが、誰に復讐するかというと、このオーナーに対してであります。これは、企業至上主義社会に放り出されていく日本の「下流」な人々にも、じゅうぶんに共感できる内容のはず。そういうこと、タイトルに全然盛り込んでいなくて、いいのかなあ。「企業社会、このままじゃすまさないぜ!」「持ち逃げ社長に、お仕置きよ!」。。。。さえなくてすまん。でも、そういう映画なのです。 それをジム・キャリーがやるのですからね。もうちょっとうまく宣伝してほしかったなあ。

12月24日より、渋谷東急他にて公開

「参考になった!」
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-20 23:38

12月第2週、3週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『スティービー』★◆
 2003年山形ドキュメンタリ映画祭で最優秀賞受賞。
 『フープ・ドリームス』のスティーブ・ジェイムズ監督が、かつて「ビッグ・ブラザー」をつとめた男性との、苦い交流を描くドキュメンタリー。
 2006.2.18~3.17 ポレポレ東中野にて期間限定公開

『マイ・アーキテクト』★◆
 20世紀建築の巨匠、ルイス・カーンの生涯を、息子・ナサニエル・カーンがおったドキュメンタリー。ナサニエルは、ルイスの2番目の愛人(3つめの家庭)の息子だった。
 2006.1.28~ 渋谷Q-AX オープニング・レイトショー

『スキー・ジャンプ・ペア トリノへの道』◆
 「デジハリ」の出世頭? 真島真一郎原案のDVDが映画化。
 試写室で他の人が冷める中、ひとりで笑い転げる…が、デジハリの作品って、いわゆる「正攻法」がほとんどないねー。世界と対峙するのは無駄とか、かっこ悪いと思ってるのかな?

『スタンドアップ』★◆
 『クジラの島の少女』のニキ・カーロ監督最新作。主演は『モンスター』に続きまたまた大熱演のシャーリーズ・セロン。
 1989年、ミネソタ州の炭鉱を舞台にした、集団セクハラ訴訟を主題にしたドラマ。『クジラ~』もそうだが、この時代に、こういうテーマを掘り当て、しかも、誰をも泣かす人間のドラマとして構築してしまうカーロ監督の演出能力に感服させられる。
 さんざん、女性達を貶めていた男達が、(よくもまあ、女が放水ホース握っただけで「握るのがうまい」とか考えつくよね~)、「彼女たちに共感しないことは、自分達もまた雇用主にいつそうされるかわからないということ」という視点に切り替わるパラダイム・シフトの瞬間の描写が見事。
2006.1.14 公開

『キング・コング』★
 別項参照

『美しき運命の傷痕』★◆
 『キング・コング』見た翌日にすごいもの見ちゃった~。『キング・コング』の100分の1ぐらいの予算で同じぐらいの映像パフォーマンスとドラマを見せちゃう。ヨーロッパ映画のポテンシャルに圧倒された。
 『トリコロール三部作』クシュトフ・キェシロフスキが撮らずに終わった遺作。ダンテの『神曲』をベースにした三部作のうち、『天国』は、トム・ディクティバがすでに製作しているが(『ヘブン』)、その二作目。原題は『L'enfer』つまり地獄。そして、監督は『ノーマンズ・ランド』のダニス・タノヴィッチ。彼の2作目です。
 「王女メディア」が背後にすける物語構成、三姉妹とメディア的母親役の4人の女優の素晴らしさ、計算された映像美、そここににじむユーモアとアイロニー。どんでん返しのラスト。重厚かつ繊細。本当に見ごたえある1本でした。

 実は、三姉妹の長女役のエマニュエル・ベアールを見たくていったのだが、エマニュエル・ベアール一人で、特撮で作り上げられたキング・コングと同じぐらいのパフォーマンスを見せてしまう。この世のものとは思えない(本当に特撮を上回る!)肉体、その肉体をただの「脱ぎたがり」にしておかない(そのへんが申し訳ないけどモニカ・ベルッチとは違う)、情熱的かつ複雑な感情を表現した演技。おそるべし、エマニュエル・ベアール。「男好きのする女」なのに、ビザなし滞在外国人を支援して逮捕されてしまうところもなんかも好きだ。フェロモンと人権運動は共存しえるのだ!

2006年春 Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマにて公開

『闇打つ心臓』◆
 1982年に長崎俊一監督によって製作された8ミリ映画の幻の傑作、『闇打つ心臓』。このフィルムを下敷きに、当時のスタッフ、キャストが集合し、そのリメイクを撮っていく、けれどもそれはドキュメンタリーではなくドラマ、という、実験的構成。
 当時、自主映画の女王といわれた室井滋の迫力を堪能できる。エッセイなんかでは笑わすように書いてあるけど、(一度取材でお会いしたことあるけど、本当にいい人だった!)、彼女の「無頼派」としての本領が発揮されている。それに比べると、リメイクを演じる若いふたりは、美男美女だけど、「まだまだ~」という感じがしてしまう。上にエマニュエル・ベアールのこと書いたけど、女優の魅力って、ホント、わからない。
2006年 渋谷シネ・アミューズにてレイト・ショー

「参考になった!」
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-18 22:49 | 見た映画一覧(簡易星取表付き)

『キング・コング』★◆

 12月17日公開なのですが、フィルムの到着がぎりぎりで、完成疲労試写が11日。うわ、これはもったいない、って感じでした。ちゃんとした映画なのに、プロモーション期間が一週間しかないじゃん!
 お正月第一弾の大作系の中の中でも、量・質おなかいっぱいになれる一本。3時間8分と長いのは、この映画が「コングと恐竜との戦い」といったショウ的な要素と、「なんでこういう話か」というドラマと両方描いているからだと思います。『タイタニック』と同じで、大筋はみんなわかっているわけだから、それにトッピングするドラマに時間が割かれている。

 ピーター・ジャクソン、例の3部作のあとではこんなのお茶の子さいさい、っていうのはうそだけど、今までの3部作で培った知識がドラマ構成、撮影の両方にいかんなく生かされている。

 「美女と野獣」の最高のバリエーションである映画だが、正直、その意図するところは、いまだに謎である。(「コングが」ってことじゃなくて、「美女と野獣型物語」が。)ジャック・ブラックがはくラストのセリフは非常に意味深である。とくにこの映画は、悲しい映画であるだけに、単純な画面、単純なおお話にくらべて、非常に複雑な印象を残す。ちょっと、忘れられないラストである。

 恐竜との戦いシーン、巨大な虫が襲ってくるシーン(恐竜より怖かった)、など、映像技術を駆使して、「今の映画はここまで見せなくっちゃ!」と思わされるシーンの数々(これは監督、切れなかったでしょう。)とくに、ニューヨークでアンと再会したコングがセントラル・パークの氷の張った池の上を、お尻ですべり回るシーンは、『タイタニック』の船のへさきと肩を並べる名ラブ・シーンです(ラブ・シーンはばかっぽくてナンボ)。世界の恋人達よ、氷のはった池をはってもまねしないように!

 それにしても、自然の生き物であるコングをどくろ島から連れてきてコングを鎖で縛って、お金をとって見せよう、という人々のさもしさを描く映画を、セキュリティチェックでぴりぴりの試写室で見せられていることという二重構造に気がついて、なんだか考え込んでしまった。そんなコングのパンフレット見たら、監督がインクレブル一家のキャラクターがついたシャツ着て写真に写っていて、笑った。この人、ほんと、いい人だなあと思った。

(追記1)
 恐竜や大型の虫、想像上の気持ち悪い生き物などがぞろぞろ出てくるが、丸腰の人間って本当に弱いんだなあとと考えさせられる。あの大型の虫なんか、あんなのにやられたらひとたまりもないものね。
 しかし、それらのシーンは、人間が大脳の発達と引き換えに手にいれたものが、「やわらかい肌」であることを見せ付けた。どんなに毛むくじゃらの男でも、あの恐竜だのムカデだのの前では、赤ちゃんの肌のようにやわらかい。でも、その肌を使って人間は抱き合い、肌でコミュニケーションすることができるのだ。キング・コングと人間を隔てたものは、あの毛むくじゃらの皮膚である。なんだか、自分が人間の肌をもっていることが、とてもいとおしく感じられるシーンの連続でした。
 
 うーん、しかしこの映画では、もう一種類の「人間」が出て来るんだよな。うーん、あの「ジャングルクロベエ」みたいの、いかがなものか…。

(追記2)
 エイドリアン・ブロディは、恐竜に追われて逃げても、やっぱりナチスに追われて逃げているように見える。

「参考になった!」
 
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-15 09:33

『ロード・オブ・ザ・ウォー』★◆

 原稿まだ。ごめん。ニコラス・ケイジがうまいです。

「参考になった!」らクリック
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-11 23:49

『男たちの大和 YAMATO』★

雑誌「週刊金曜日」新年号1月6日発売)で、佐藤純彌監督のロングインタビューを担当しました。(実際にインタビューをしたのはオウム真理教を追ったドキュメンタリー『A2』の森雅之監督。私の仕事はテキストのまとめ)
 実は森さんはある雑誌からの執筆依頼がなければこの映画を見ようという気は起こらなかったそうだし、私もそうだった。森さんは新しい方の『戦国自衛隊』を見てがっくしきちゃって『亡国のイージス』も見に行かなかったそうだし、私も『ローレライ』でそういう気にさせられていた(『ローレライ』見なければ行ったかも。私は『亡国のイージス』は見たし嫌いじゃなかったから)
 しかし、一足先に試写を見た森さんが「恐れ入りました、参りました」という気持ちになって、主観金曜日でのこのビッグ・フィーチャーとして急遽取り上げることになったといういきさつ。(私はインタビューの前の日に依頼され、映画も見ずに東映撮影所でインタビューに立ち会う、という慌しいスケジュールだったのでした)

 森監督は、「このような戦争の悲惨さを描いた映画が、勇ましい宣伝キャンペーンとともに消費されていくことにいらだちをお感じになりませんか」ということを繰り返し質問していた。たぶんそれは、この映画の宣伝キャンペーンだけではこの秀作を見逃しただろう、という危機感からきたものだと思う。

 インタビューの3日後、私も映画を見て同じ事を感じた。私が反応したのはタイトルである。なにしろ見たらどっこい、内容は「男達の大和」じゃなかったからである。
 この映画は、当時の大和の最後の戦いの日々と、現代に残されてしまった人々(生き残ってしまった兵士や、その戦友の遺児)とのドラマとを、同時進行で描いている。で、現代のドラマの主人公は、生き残ってしまった神尾年少兵=仲代達也、戦後、戦災孤児を引き取ることに生きがいと見出した帰還兵の遺児=鈴木京香、広島の漁港で、いまひとつ将来が見えずにいる少年とを主人公にしている。つまり、老人と、女と、子どもである。佐藤監督は、ドラマツルギーからわざとこういう対立構図を作ったのだと思うが、この映画は主人公からして「男達の大和」ではない。「みんなの大和」である。でも、今回の宣伝キャンペーンは、あきらかに「男達の」といって見たくなるような人のみにキャンペーンをはっている。これは大変残念である。

 佐藤監督の演出は大変細やかである。本当にさまざまな角度から、人々の悲しみ、痛みを描いている。

 映画を見て私も泣いてしまったのだけれど、試写室で洟をすすり上げている年配の男性たちを見て、私は思った。私が泣くのはこの映画だけではないけれど、こういう映画でないと泣けない、という人々が、世の中には相当数いるのだと思う。そういう人たちがこういう映画を求め、「軍的なもの」を求めているのかもしれない。泣くために。唯一許された感情の解放の場を求めて。
 みんな、もっと泣くべきだよねー。映画なんて、そのために存在するようなものだもの。

 今回のインタビューは本当に面白いのでぜひ読んでほしいなと思っているのですが、結局、人を動かすのはイデオロギーじゃなくてドラマだなあと感じた。佐藤監督は、お会いしても非常に成熟した人柄を感じさせる人で、その視線が演出にそのまま生かされているという感じだった。
 重厚感のある、「戦争映画ってこうじゃなくちゃ」というエレメントがきちんと入ったいい映画です。

「参考になった!」らクリック

(追記)
 ブログでいくつか『タイタニック』と似ている、という感想を読んだんですが、それは、話が似ているのではなくて、暗喩されているものが似ているからしょうがないかな、と思います。
 佐藤監督は、「大和」というのは日本近代史の象徴と感じた、とおっしゃってました。つまり、富国強兵で、しかもロンドン条約で戦艦の数が制限されため、「一つが多きければいい、強ければいい」というのが、日本が原爆で破壊されたのと時を同じくしてめちゃめちゃにされるわけです。それが未来とどうつながっていくかを描かなければ、救いようがありません。
 同時に、今思うと、『タイタニック』は、近代西洋の行方を暗示していたし、(技術におぼれ、沈むとか、結局助かったのは富める順だったとか)、ジャック・ドーソン君の人生がさらに西洋近代を暗示していたのでした。自由主義経済の中の一無産階級であった彼は、いちかばちかの賭けでアメリカに渡ります。その賭けにまあ、彼は敗れるわけです。しかし、その後、彼が花開かせたものがあった。それがローズの人生です。そこを描くのが、物語の物語であるゆえんなんですよね。

(追記2)
 「男たちがなぜ戦ったのか、いまいちよく描けていない」ことについて。
 これもまた一種の対立の構図だと思う。女達の欲望は簡単。「死んだらいけん!」 そこに理由はないし、理由がなくても共感できる。でも、この男達は、結局のところ、自分達にもどうして戦っているのか、よくわからないのだ。
 これは、ドラマとしては面白みが半減する。登場人物の行動のベクトルというのは、たとえ間違ったにせよ、理由があったほうがわかりやすい。例えば、「パール・ハーバー」のドゥーリトル作戦だって、(アメリカ人のくせに)「名誉の死を選ぼうではないか」なーんていわれると、「(全然共感しないけど)あなたはそう思ってるのね」ってことでドラマとしては納得できる。
 だけど、この作品の場合、もうしょうがないと思う。だって、そこに理由はないのだから。「国を守るため」とか「愛する家族を守るため」というのはやっぱりつけたしなのだと思う。だから、そんな理由では納得できないのだと思う。

(追記3)
 先週金曜日の「ニュース23」で、おすぎさんも、「タイトルだけで敬遠してたんだけど、見たらすごくいい映画だった」という趣旨の発言をしていた。みんなそう思うのねー
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-11 23:47

2005年11月第5週、12月第1週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『SAYURI』◆
 感想はこちら。TBもこちらにお願いします

『男達の大和』★◆
 感想はこちら。TBもこちらにお願いします。秀作。

『家の鍵』◆

『ロード・オブ・ザ・ウォー』★◆
 感想はこちら。TBもこちらにおねがいします。

「参考になった!」らクリック
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-12-11 23:26

『SAYURI』(問題作◆)

 試写鑑賞後、めずらしく、ハリウッド大予算ムーヴィーの記者会見に行っちゃった。ロブ・マーシャル監督を見たかったし(「会いたかった」という表現は使えないだろう)ぜひ質問したかったのだ。

 いちばん聞きたかったのは「水揚げ」のこと。映画の中でマーシャルはさゆりに(第二次大戦後進駐してきた大佐に向かって)「儀式は生活を楽しむコツである。儀式が生活にめりはりを与える。(ゲイシャの仕事はその儀式を人々に供給することである)」ということをいっていて、これは、日本人である私にもわからなかった「日本とは何か」の言語化だった。なるほど、いいこといわせるなと思った。

 様式化されたゲイシャの美の中で、もっとも儀式化されたのが「水揚げ」である。ゲイシャの初めての夜。性愛の儀式。この相手になる男は、経済力はもちろん、慎重に選ばれる。
「水揚げ」の語源は、切花の茎を切って水の上がりをよくすること、つまりその花を花として開かせるため、「何か(気?)」を通すことである。今花開こうとするつぼみ(関東では半玉、京都では舞妓)に気を通して、女として開かせる儀式を「水揚げ」と呼ぶのである。なんとエロティックで的を射た隠語かと思うが、それが儀式であり、花開かせるためにはそれなりに強い「気」をもった男とするのが、一般の売春(「女郎」)とは違うところなのである。
 マーシャルは記者会見で、「ゲイシャは単なるプロスティテュート(売春婦)ではなく、まさにゲイを売る女性たち、アーティストであるということが世界中にわかってもらえたと思う」とは言っていた。でも、そのわりに、「水揚げ」そのもののシーンはやけにあっさりしたものだった。
 (水揚げにいたるまでのさゆりをめぐる女と男たちのさやあてはかなり詳しく描かれるのだが)。

 同時に、さゆりは、初恋の人である「会長」(渡辺謙)にずっと思いを寄せている、というのがこの映画の大プロットであるわけで、そのわりに、水揚げをあっさり受け入れすぎではないかね? やはりそこには大きな葛藤があると思うのだが。なんであんなにあっさりしちゃったんでしょう? そのへんの監督の演出意図をお伺いしたいと思いますが?

 聞きたくありませんか? この答え。でも、今回はあててもらえなかった。「女優さんたち皆さんの秘めた恋についての思い出」とかの質問はやけに長かったのにさ。フォトセッションその他で2時間も待機する、長い長い記者会見だったのに・・・ちぇっ。

 今書いていて一つ自分で答えを見つけた。「さゆりは水の女」というのが今回のテーマである。コン・リー演じる初桃は火の女だし、ミシェル・ヨー演じる豆葉は土の女かな? さゆりは水になることによって、セックスに対してさえ、本当にあるべきゲイシャのすがた、完全に「芸神的存在」としての達観を得たのかもしれない。
 うーん、最初、性愛のシーンがお粗末なのは「やっぱりスピルバーグ映画だからなー」とか思ってて(ブエナ・ビスタ=ディズニーだし)、ボブ・マーシャルもやはりスピルバーグ御大の方針には逆らえなかったのかな、なーんて思ってたの。でも、これ、ボブの計算ずくの演出かもしれない。よく解釈すればですけど。

 セックスをめぐって傷つかない存在になるためには、セックスと人格が完全に切り離されていることが大切である。たとえセックスが自分のコントロール化に置けなかったとしても、私自身が穢れるわけではない。そういう確信が必要である。たぶん、そのとき、女性は昔から宗教がめざしてきた「巫女」になるのだと思う。メソポタミア文明なんかでも、「女神イシュタルの巫女と性愛を交わす」っていうの、ありますよね。
 でもね、そんなこと、現実にできますか? ムリ。本当に菩薩にならないと。そんな人、そんなに簡単にいるわけないじゃないですか。
 ゲイシャというのは、幸にも不幸にも、そうなる機会を与えられた女たちである。これが物語におけるゲームの第一歩。次々に挫折していく女達。また、さゆり自身も常に激しい葛藤に苦しむ。しかし、さゆりは持ち前の「水」の力によって、その道を歩んでいく…。

 としたら、この映画のラスト、とても変だ。そうなってはいけない終わり方なのだ。
 祇園の芸妓は子どもは生める。でも結婚はしない。子どもは母の子。母系の子。まるでマリアの処女懐胎のように子どもは生まれ、「祇園の子」として大切に育てられるのだ。
 このあたりに、私は実は女性が舞妓さん、芸妓さんに憧れる理由がある気がする。性的自己決定権を手放すことによって、かえって誰かの所有物ではなくなる。誰か自分で決めようとすると、「ひとりの夫のもの」という穴にはまる。これは、女の知恵というか、大どんでん返しである。
 でも、結局西洋の映画は、その「誰のものでもない=巫女的存在」であることをさゆりにゆるさない。その芸域に達して初めてはじめて「真のアーティスト」といえるのに。

 モデルである日本人のもと芸者、ミネコ・イワサキは、原作がベストセラーになった01年、原作者のアーサー・ゴールデンに賠償金を求めて告訴した。「身元を明かさない」という約束を破られた上、水揚げ料の額を暴露されたことが、慎み深さが重視される芸者の世界での名誉を傷つけられた、というのが主張だそうだが、イワサキの怒りは、結局、「聖なる性のひさぎ手」である芸者が、人間の男なんかに恋をしたと書かれたのが許せなかったのではないだろうか。

 女優に日本人が起用されなかったことであれこれ意見がかまびすしいが、「世界的視野でキャストを選んだ」という言葉を信じるなら、すばらしい日本の男性が「世界的視野」をクリアして選ばれたことを誇ってもいいのではないだろうか。記者会見壇上に並んだ渡辺謙と役所広司、ふたり並ぶとほんとにセクシーだったもの。「日本の中年男が全員渡辺謙と役所広司だったら、日本はずいぶん平和になるだろーなー」と思っちゃいましたね。美しかった。
 女優では、ミシェル・ヨー、映画の中でも、記者会見でも、とてもいい人で大好きになっちゃった。「私はモダン・ウーマン」だということを、はっきりいっていた。
 しかし、この映画でいちばんすごい俳優は、さゆりの子ども時代を演じた大後寿々花でしょう。なにしろ映画の三分の1彼女が主役なんですから。ロブ・マーシャルも「前半三分の1を演じてしかもそのあいだに観客にさゆりを好きにさせなければいけない。いちばん大変な役だった。キャスティングも一番難航した」といってました。
 『北の零年』で自分の娘役を演じたことから渡辺謙がロブに推薦して話が決まるんですが、英語もまったく話せなかった(ふつうの小学生なのでアルファベットも知らなかった)のに、まったくたいしたものです。

(追記1:主演に中国人のチャン・ツィーが選ばれたことについて)
 実はこのキャストのキモは「ダンス」だったと思っている。ニューズウィーク日本版によれば、チャン・ツィーに決まるまでの日本人の候補というのも、日本人在住のダンサーだったそうだ。容貌と演技力以上に、この映画でダンスは重要なのである。「芸者=アーティスト」なのだからね。
 で、結局ダンスの見せ場は「日本舞踊」とはいえないものに改変されてしまっているのだが、むしろ、付け焼刃の日本舞踊では絶対無理という判断ではないだろうか。
 バレエ学校出身で、『LOVERS』では演技よりその身体能力の高さで見る人を絶句させたチャン・ツィーは、日本舞踊のシーンでかなり頑張っていると思うけど、それでもちょっと決まらない。しかし、日本舞踊というのは、本当に難しいのである。もし日本から誰か押すとしたら、日舞をちゃんとやって演技もできる、という選考基準だと、歌舞伎の家出身の女優ぐらいになってしまうのではないっだろうか。(…とすると、寺島しのぶか? あ、松たか子がいた!)
 ロブ・マーシャルはもしかしたらドラマ以上にダンスにこだわりがあるだろうし、まあこうなるのは仕方ないのかなあ。ダンスの「きめ」のシーンでのチャン・ツィーの背中のしなりは、それはそれで見事だったのでした。

(追記2:芸者とは何か? について)
 「芸者はプロスティテュートでなく、アーティストである」って、敬意をはらってるようで実は変な気がする。それは、プロスティテュートを、「レイプされても金もらって笑ってる人間以下のもの」と、白人マッチョ文化の定義から始まるものでしょ。「至高の、神にも届くセックス」への憧れがない人がいますかね? 芸者はあれこれ人権を無視しながらも(それは事実)、そのことにまじめに取り組んできたシステムである(きっとそれは「SASUKE」みたいなものなのだ。第2ステージクリアぐらいの芸者はそれなりにいるのだろうが、至高のゴールに到達した者がいるかどうか。)
 いずれにせよ、セックス自体に罪の意識が意外と強いハリウッド映画は、その領域に踏み込むことは、きっと永遠にできない。だからこの映画は中途半端なんだと思う。ポランスキーあたりが作ればよかったんじゃないの?

(追記3 衣装について)
 着物が変だ、という話はどうせあちこちで書かれるだろうからまあいいでしょう。今、写真で確認したら、女性の着物が全部「棒襟」なんですが、今の日本人だって「棒襟」が何かわかんない人は少なくないだろうしね(私は和服の仕立てでお小遣いを稼いでいたことがあります)
 実は、私が一番フィクショナイズされてると思った着物は、さゆりが芸妓を目指す前の下地っ子だったときの着物。これは「質素」な着物のつもりなんでしょうが、日本の当時の貧乏な人はもっとすすけた着物を着ていただろうと思う。わざと男ものの着物を女ものに直したようなこの着物は、ちょーモダンに見えるのだ。なんつーか、アルマーニの逆輸入版みたい。あれ、すごくいい。気に入りました。
 そういえば、「キル・ビル」のルーシー・リュ―が着てた着物も、絶対着物がわかってる人が作ったという感じの色あわせで、ありえねーけど、美しかったね。

「参考になった!」
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-11-29 13:34

『RIZE (ライズ)』★◆

 ロス暴動の起きた地区であり、「全米で最も危険」と言われる地区、LA、サウス・セントラルに住む(出られない)黒人たちから生まれたダンスをおったドキュメンタリー。87分だが、非常に強い印象を残す。

 「踊らなければ、どうなっていたかわからなかった」。そういう若者たちが多数登場する。彼らを引っ張るのは「トミー・ザ・クラウン」で、彼は、クラウン(ピエロ)の格好をして子ども達のパーティを回り、子ども達を凶悪化への道から救ってきた。

 彼らから繰り出されるダンスの身体能力の高さには驚かされるばかりだ。そして、彼らが独自に振付けたその踊りは、今もアフリカで彼らの遠い親戚によって行われている踊りと酷似している。そして、彼らはまったくそのことを知らなかったのだという。時代のカリスマ的フォトグラファー(本作で監督デビュー)デヴィッド・ラシャぺルのアイディアで、両方の映像がフラッシュバックのようにさしはさまれていく演出を見た彼らの中には、「これを見て、自分のアイデンティティに自信がもてた」という子もいて、ラシャぺル監督を喜ばせたそうだ。

 ちょっと話がそれるが、泣いている赤ちゃんの、骨盤をさすると泣きやむんだそうです。それは、人間の骨盤あたりに快楽ホルモンが出る場所があるからだそうだ。人間が性愛のときに腰を動かすのも、実は人間は性器で感じているのではなく、腰の動きにより、快楽ホルモンが出ることで快感を得ている、という説があるらしい。
 この映画の中で、彼らは非常に激しく腰を振るのだが、それはその動きによって快感を得ているのではないか。そして、それほど激しく腰を動かして快感を得でもしなければ、生きていくことに希望を見出す(=生きていく恐怖、絶望から解放される)ことができないのではないか、などと考えてしまった。
 
 現在、アメリカの人口はアフリカ系12パーセント、ヒスパニック13パーセントで、ヒスパニックが黒人を逆転している。また、7パーセントのアジア系も増え続けている。しかしここでは、古く、つまり人権問題がきちんと整備されていないときにここに連れてこられてしまったががゆえに、貧困と暴力が世代間連鎖を続けてしまっている、さらに深刻なアフリカ系の実体をきちんと見たきた。

 10人以上のアメリカ人の知己がいるが、彼らのうち、ヨーロッパ系(いわゆる「白人」)の人は、ほとんどが三世、二世も少なくないことに私は驚かされている。(「旅するジーンズと16歳の夏」でも女の子のひとりの祖父母がまだギリシャに住んでいましたね)。黒い肌の持ち主は(ヒスパニック圏から来た人は除いて)南北戦争以前に歴史をさかのぼれるわけだから、アメリカ合衆国では白人より黒人のほうがずっと歴史が古い人たちになりつつあるのだ。
 ところが、その二世、三世の白人の人たちは全員高等教育を受け、地位の高い仕事についている。彼らの両親、祖父母だって、そんなにいい経済状態でアメリカに来たわけではないだろうに、彼らの社会的地位はあっというまに、南北戦争以前からアメリカにいる人たちを追い抜いてしまっている。

 「自由競争経済の拡大」は、「意欲の不平等化」だと私は思っている。勝ち組が独占していくのは、経済的成功だけではなく、実は「意欲のもてる仕事」「創意工夫ができる楽しい仕事」なのである(悪い結果として、「意欲中毒、創意工夫中毒」にはまってしまい、金持ちはますます働く、という構図もできているのだが)。
 対して、階層が下であるほど、「頭を使わない仕事」「工場のコマのような仕事」を求められる。仕事を達成しても、誰もほめてくれない、人間の感情が切り捨てられた現場にいさせられる。だから続かないし、考えなくなる。ますます頭を使わない仕事しかできなくなる。仕事に喜びが見出せないので、ますます働きたくなくなる。貧富の格差だけでなく、意欲の格差がますます拡大するのだ。

2006年正月第2弾 シネマライズ他全国ロードショー
「参考になった!」らクリック
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-11-29 12:10

2005年11月2、3、4週に見た映画

★はおすすめ印
◆は誰にでも勧めるというのではないが、個人的には問題作だと思っている印
□は、すごく期待していたのに、裏切られた~(怒)という印

『博士の愛した数式』★
 感想はこちら。TBもそちらへお願いします。

『僕と未来とブエノスアイレス』

『ブラック・キス』◆
 手塚眞監督最新作によるホラー。
 妙にハーフの多い映画だった…。

『ルー・サロメ』★◆
 完全にやられてしまった。感想はこちら。TBもこちらにお願いします

『ウォ・アイ・ニー』
 感想はこちら。TBもこちらにお願いします
 2006年3月 東京都写真美術館にて公開

『CRASH クラッシュ』★◆
 感想はこちら。TBもそちらにお願いします
 2006年2月 シャンテシネ 新宿武蔵野館他にて公開

『スパングリッシュ』★◆
 いいっす。(感想先送り)

『RIZE ライズ』★◆
 ロス暴動が起きた地区、LAサウスセントラルを舞台にしたダンス・ドキュメンタリー。詳しい感想はこちら。TBもそちらにお願いします
 2006年正月第2弾 シネマライズ他 全国順次公開

「参考になった!」らクリック
[PR]
# by ropponguimovie | 2005-11-29 11:25