あんまりくだらない感想しか考えつかなかったので投稿がはばかられていたのだけれど、いや、結構大事な話なんじゃないかという気がしてきた。
ケン・ローチが一貫して問題にしているのは、階級のこと、肌の色のこと。そして宗教のこと。それは昔からある一貫した差別の価値観だ。これども、資本主義に汚染た私の目から見ると、この映画は、もう一つの大きな差別の問題を露呈していて、それをケン・ローチがあまり意識していないために、どうも話が半端になっちゃってる気がする。それは「容貌」の問題である。 主演ながら本作が演技初体験となる南アジア系のアッタ・ヤクブは、しかしすでに、大学院の本業のかたわら、モデルとして活躍していたそうだ。で、モデルであるところのアッタ君は、西洋ファッション資本主義に汚染された私の目から見ると、実に「ハンサム」なのである。服を脱いでも、とってもとってもきれいである。 私は、彼を見て、「世界のファッション界にもっとも影響を与えるふたりのお姐さん」が、絶対に彼のことを好みだろうと断言することができる。ひとりはミウッチャ・プラダ、もうひとりはソフィア・コッポラである。ケン・ローチの世界とはまったく重ならない世界に生きる二人である(涙笑)。で世界の中のあらたな差別的世界観を作っているふたりの目から見れば、彼はまったくの「イン」なのだ。 「イン」であるからこそ、アッタ・ヤクブ君は、心の中にさらに強い葛藤を抱えているのかもしれない。 イギリスの中のパンシャブ・コミュニティに育ったアッタ君自身「4年間も白人の女の子と付き合っていたのに、手をつないで歩いているときに、向うからひげをはやした男の人が歩いてくるのを見て、思わずその手を離してしまった」という経験があるそうだ。インな彼にもやはり、非常に強いコミュニティからの束縛がある。もしかしたら、この映画の中のキス・シーンとかも家族から反対があったかもしれない。 映画の主人公カシムも、肉体労働者だが週末にはクラブのDJをやっているという設定になっていて、おもてむき、彼は「西洋資本主義ファッション社会」とそれなりにうまくつきあっているクールな男の子なのだ。それなのに、彼の肉体、彼の愛と生殖は、奥の奥の奥では彼のものとして管理されていない。ケン・ローチ、やっぱりわかってたのかもしれない。 数年前、カナダで初めて人種差別というものを経験した。私はブリティッシュ・コロンビア大学で短期の講義を受けていて、その日の夕食を、住宅街の中の(つまり観光客が来ない)「ふつう」の西洋風のレストランで食べてしまった。外から見るとそのレストランは「デニーズ」ふうで、私の目には親しみ深かったのである。 ところが、白人のウェイトレスに、ドアの一番近いところ(雨が降っていて、寒い日だった)に座らされた。私たちのとなりは、サリーを着たインド系の女性で、そして奥の方を見ると、白人の恰幅のよいおじさんたちが見えた。 「あーやられた」。あからさまなやられっぷりに怒るというより呆然としていた私だったが、でも、もっと興味深かったのは、その白人の彼女が、それではどんな相手を優遇するのかということだった。彼女はオーダーをとったり料理を運んだりといった作業をそこそこに、バー・カウンターにいる男性客のところにおしゃべりをしに行ってしまうのだが、その男性客がでっぷり太っていて服装もいけてなくて、はっきりいって「白いだけ」なのだ。人種差別というのは、他のあらゆる差別感覚を超えて、ようするに「白けりゃいい」のかと、感心してしまうような体験であった。私なら、あの白人男とアッタ君ならどう考えてもアッタ君である。 この映画を見てから、私はずっと考えている、主人公カシムの役を、『ムトゥ・踊るマハラジャ』のラジニカーントがやったらどうなるだろうか、と。鼻が丸く、お腹が出ていて、それなのに西洋ファッション資本主義とはまったく別の観点で「スーパースター」といわれている男がやったらどうなるだろうか、と。でも、映画というのはビジュアルである以上、そっちの方が、より、「文化対立」の話になったのではないかと思うのだが。 マイケル・ジャクソンを見よ。彼が整形手術の中でとくに念を入れて直したのは、その肌の色と同時に「鼻」である。アッタ・ヤクブ君の肌は黒いが、鼻はとんがっている。世界は階級や肌の色と同時に「鼻」で差別されている。アッタ君は有色人種であるという点で私の共感を誘うが、鼻がとんがっているという点で、私とは別世界の人である。 やれやれ、つくづくこの感想は、自分を客観視していない、どーしよーもなーな感想です。なぜなら、白人であるが低階層に置かれ、経済的困難は黄色い肌の私よりずっと深刻で、そのうえ、カトリック支配という無宗教日本人の私には無縁な困難を抱えているヒロインのロシーンについて、私はほとんど何も考えなかったからだ。 5月7日より公開中
by ropponguimovie
| 2005-06-05 11:47
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