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『ガーダ』★◆

 「古居みずえ第一回監督作品」という情報だけで作品を見たとき、古居さんって、もっと若くて怖いもの知らずでガンガンつき進んでしまうタイプのビデオ・ジャーナリストかと思った。映像がとてもみずみずしく、また、主人公のガーダと視線が同位置にあったから。でもそうではなかった。古居さんは1948年生まれで、1988年にパレスチナで取材を始めたとき、すでに40歳だった。37歳のときに原因不明の関節リウマチに襲われ、1ヵ月後には歩行器なしで動けなくなった。その後、投薬したクスリが奇跡的にきき、回復したことから、「一度きりの人生で、何かを表現したい」と、OL生活からジャーナリストに転身する。

 この作品では、パレスチナの難民キャンプに育った女性、ガーダの人生をおいながら、カメラの前に立つガーダと、カメラを回す古居監督との心のケミストリーが映画の中に写し取られている。女性ジャーナリストであるミツ(古居監督のこと)の前でベールを脱いだガーダは、心のベールもぬいだ姿をミツに見せる。「伝統的な生き方はいや。進学したかったのに、女性ということであきらめざるをえなかった…」やがてガーダは結婚するが、「初夜の晩に、親戚一同に自分が処女であることを証明しなければいけない」という慣習を拒んで、夫と新婚旅行(慣習にはない)に向かう。当時、イスラエル・パレスチナの和平を信じていたガーダ。しかし、その後第2次抵抗運動が勃発。ガーダの親戚の少年も殺され、家々も破壊される。ミツと友情を深め合ったことで、ガーダの怒りや悲しみは、「私もまた、この事実を記録したい」という具体的な目標に変わる。ガーダは生き残ったお年寄りたちから、戦争の歴史の聞き取り調査を始めるのだ。

 地味な作品だが、写し取られているのは、世界でもめずらしい(これからも見ることはないかもしれない)貴重な映像である。イスラムの女性達がベールを脱ぎ、本音の姿を見せ始める。それは、ビデオ・ジャーナリストという職業的な技量を超えた、古居監督の人間的な技量と関わった成果だろう。「私はあなたが大好きです」。映像の最後にこうしたガーダのビデオレターが流される。ガーダの心からのメッセージに、胸が熱くなり、試写室に拍手がわいた。

「参考になった!」
 
by ropponguimovie | 2006-02-18 12:15
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