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今週、いちばん癒せる映画! vol.17 『ブラッド・ダイアモンド』


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 ところで私、ただいまロサンゼルス近郊のマリナ・デル・レイというところにいます。
 最低1ヶ月、へたすると2ヶ月ぐらいアメリカにいる予定です。2ヶ月も留守して、東京に戻ったら果たして映画評論家として執筆できる媒体があるのか謎なのですが、文章修行ということで、思い切って来ています(ほとんど外出もせず、日本語の本を読み、書き物をしています)。
 昨年末ハリウッドに滞在したときは毎日のように映画を見ていたのですが、今回は、ちょっとそうもいかないようです(2マイルぐらいあり、遠い)。しかし、週末になったら、ぜひ、こちらかサンタモニカまで見に行こうと思います。


 さてさて、今週オススメの1本は、昨年末初めてアメリカに滞在したときにハリウッドで見た、『ブラッド・ダイヤモンド』です。


 私の英語力は、「流暢」というには程遠いので、この映画も、完璧にはわかっていなくて、日本に帰ってきてから他の評論家の方のサイトを見たら、「ああ~、ここわかってなかった」ということがたくさんあって、ちょっとがっくしきてます。
 例えば、レオナルド・ディカプリオ演じる主人公アーチャーの出身地が、私は「南アフリカ」だと思っていたのですが、字幕付きによると「ローデシア(現在のジンバブエ)」だといっているそうです。ローデシアはダイヤ利権に絡んだ人種隔離国家ですが、南アフリカよりさらに一層複雑な歴史をもっている国で、その国で生まれ育ったアーチャーが、「人生カネ、人生ダイヤ」になってしまった背景は、さらにいっそう複雑であろうと予測されます。

 
 しかしながら、不完全な英語で見たほうが、良かった、と思うことも、いくつもあります。
一つは、細かいことがわからないので、かえって、物語の大きな骨格にしっかりとフォーカスが当たるということ。もう一つは、英語で見て、決して全部理解できていなかったのに、ちゃんと泣いたこと。字幕がなくても、かえって、残った五感で感情がダイレクトに伝わる楽しさ、というものを体験しました。さらに、終わった後、他の観客と一緒に、拍手までしました。これも、忘れられない体験です。


 さて、なぜ、私と観客は映画に泣いたのか? 拍手までしたのか?


 ここに、もちろん、この映画の「癒し」のポイントがあります。
 ついでに、『タイタニック』では無視されたレオ様が、今回本作でオスカーにノミネートされたポイントも。


 読者の皆様は「英雄(ヒーロー)」の定義をご存知でしょうか? 「英雄」というのは、「強い」「勇敢」というのが必要十分条件ではないのですね。英雄は実は「犠牲」を伴わないといけないのです。『タイタニック』のジャック君も、自分の人生を十分に生きて、最後は、それと同じ充実感をローズに味わってほしくて自分を犠牲にするから、英雄になりえるのです。


 今回、レオが演じるアーチャーも、最後に、ある、犠牲的選択をします。
 しかし、『タイタニック』のジャックと違うのは、アーチャーが、物語の最初はかなり自己中心的なヤツ、いわゆるアンチ・ヒーローであることです。
 アーチャーは紛争ダイヤの売人で、それが自分をアフリカ大陸(どうやらそこで生まれた運命を受け入れられないらしい)を脱出させてくれると固く信じています。
 途中、ジャーナリストのマディ(ジェニファー・コネリー)と出会いますが、「紛争ダイヤをなくしたいんなら、俺たちを告発するんじゃなくって、婚約のときにステキなダイヤをもらいたくてはしゃいでるお気楽娘たちを戒めろよ(多分そういった)」みたいなことをいったりします。


 しかし、最後に彼は変わるわけです。変わって自分を犠牲にすることを選ぶのです。
 そのダイナミックな変化に、つい、ぼろっときちゃうから、(しかも細かいことわかんなかったから?)思いっきり、拍手なんかしちゃったわけです。


 『タイタニック』はステキなお話でしたが、主人公にのみ焦点を当てると、彼の人格的な変化が小さい、という指摘が否めません。最初からいい子ちゃんなんですよね、ジャック君は。当時のディカプリオは、容姿がもっとも「王子様的」だったとき、つまりキャラが現実離れしていて、だからこそ「様」がついて呼ばれるようになってしまったのではないでしょうか。子役時代の彼の方が、当時よりはむしろ人間の葛藤を表現する役を演じていましたから。


 しかし、今回の彼は、風貌が実にふてぶてしい(笑)。レオに、もう「様」をつけることはできません。それは、彼はもう、『タイタニック』のジャック君のような、浮世離れした王子様じゃないからです。最近の彼はあごの周りに肉がついてきましたし、眉間にもしわが寄ってきましたが、そこがいい。俳優として、一段違うステップに上がった気がします。
 そして今回の「大きな人格的変化のある役」の方が、オスカーとしても評価しがいがあるように思います。


 彼とからむ、ジェニファー・コネリー、そして、ジャイモン・フンスーもとてもいいです。ジェニファーは、信念はあるものの、とても冷静で、行動力のある女性ジャーナリストを演じています。ジャイモンは、反政府軍RUFの少年兵として拉致されてしまった息子をとりかえしたい猟師の役を演じていますが、ドラッグを使って洗脳されている息子(だから、父親だとわからず、彼に銃を向けてしまう)に、父親の情愛を示して語りかけるシーンも、ほろりときます。


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「今週 いちばん癒せる映画」!」 vol.17  発行43部
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2007.4.6 発行
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# by ropponguimovie | 2007-04-06 16:40

今週、いちばん癒せる映画vol.15『ホリデイ』

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 今週は…。


『アルゼンチンババア』『ひいろ』『ユアン少年と小さな英雄』なども悪くないですが、
 個人的体験と重ねて(笑)『ホリデイ』にしました。


 実はこの映画、昨年のクリスマスに単身LAを訪れたとき、ちょうど公開中でした(これはクリスマス映画なのです、今日本でやるのは、ちょっと損です)
 

 そのときには見ないで、日本に帰ってきてプレス試写室で見て、「あー、ロスで見ないでよかった」と思った。


 なにしろ、恋人にふられてクリスマスに楽しい予定のない女性ふたり(イギリス人とアメリカ人)が、クリスマス期間中、家を交換し合う、というお話。ひとりで見たら、いたかったろーなー(笑)。


 しかも、キャメロン・ディアスはハリウッドで成功している映画編集者(ベルエアあたりに立派な自宅軒オフィスをもっている)なので、出てくる風景も妙にだぶる…。とほほ。。。


 さて、この映画で興味深いのは、「ハウス・エクスチェンジ」といって、家ごと交換してしまう、というシステムです。いったい、「貴重品とかどこにしまうんだろう?」その前に、「ちらかった家を他人に見せるなんて!」とびっくりしてしまうのですが、他の映画評論家の方のサイトによると、欧米ではとてもポピュラーな習慣で、インターネットができてからは、ますます盛んなのそうです。


 古典の物語に「都会のねずみと田舎のねずみ」というのがありますが、この映画でも、主人公のふたり(キャメロン・ディアスとケイト・ウィンスレット)は、家を入れ替えるだけでなく、人生すべてがとっかえされてしまいます。そして、その結果、もしもこのようなシチュエーションでなければ決してステキには見えなかった「ごく普通の男性」たちと恋愛をしていく。
 片方は見た目はクールじゃないけど、気さくな男性(ジャック・ブラック)。もう一人は、見た目は超クールだけど、シングル・パパ(ジュード・ロウ)。その相手は「王子様」ではない。だからこそ、見ていて「地に足のついた恋愛」という安心感があります。
 まあ、ジュード・ロウの容貌をして「ごく普通の男性」というのは無理がありますが…(笑)

 
 イギリスの片田舎からやってきたケイト・ウィンスレットの友人になる、リタイアが近づいたハリウッドの老脚本家、も、いい味です。こんなふうに、この映画では、ハリウッドの映画の製作者(俳優ではなく)たちの生活が描かれていて、その点も興味深いです。


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「今週 いちばん癒せる映画」!」 vol.15  発行35部
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2007.3.23 発行
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# by ropponguimovie | 2007-03-25 11:45

今週、いちばん癒せる映画vol.14『デジャヴ』

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 今週のイチオシ映画は、トニー・スコット監督の最新作『デジャヴ』です。
 この映画は、試写室では、かなり評判がよく、1回満席で入れませんでした。
 他に今週は、『フランシスコの二人の息子』もおすすめです。

 さて、『デジャヴ』の監督はトニー・スコット、製作はジェリー・ブラッカイマー、主演はデンゼル・ワシントン。
 意外でしょ、ジェリー・ブラッカイマーの映画で癒せるなんて(笑)。
 しかし、冒頭でも書きましたが、試写室はとても盛り上がっていて、見た後のカタルシス(=こころの浄化作用)が見た人の間で共有される気持ちよさがありました。映画の法則に従って、丁寧に映画を作ると、すごい癒し感が得られるという好例だと思いました。

 デンゼル・ワシントンが演じるのは、軍事学校の卒業式の船を爆破されたテロ事件を担当する捜査官。しかし、捜査を進めていくうちに、彼は不思議な現象=deja vu (今までに見たことがあるような感覚)に遭遇していきます。やがて彼は、FBIとの協力によって、過去の姿を映し出せる装置を使うことができるようになります。そして彼は最後、テロを予防するため、この装置を使って、自ら過去に飛び込んでいきます。
 
 さて、wikipedia日本版のジェリー・ブラッカイマーの項を読むと、このように書いてあります。

【彼の製作した映画のほとんどは、単純な筋書きや凝った特殊効果の導入による派手なアクション、大ヒットしているポップ・ミュージックを起用したサウンドトラック、ありえないほどテレビ映りのよい俳優たちの起用を特徴としている。このため彼の映画は派手なオープニングと見た目のわりに無内容だとして全米の映画評論家からは酷評されているが、アメリカだけでなく世界で多くの観客を集め、収益的には大きな成功を収めている】

 もう、けちょんけちょん(笑)。

 しかし、彼の映画の、ここに書いていない大きな特徴は「犠牲」をうまく扱っているということだと思います。
『アルマゲドン』を筆頭として、『ヴェロニカ・ゲリン』『パール・ハーバー』『トップ・ガン』『キング・アーサー』などは、犠牲の痛みをともなう映画です。

 「英雄の定義」って何かご存知ですか。英雄というのは「自分を犠牲にする」ということが必要条件なんです。(現実にそう、ということより、「物語の中の英雄の定義」と考えてください)。それは美しく、悲しく、信念があり、誰もができないけど誰もが一度は憧れる生き方です。ジェリーはそれを生き方の信念ではなく、「エンタテインメント」「ヒット映画の法則」として作っているように感じるから、叩かれちゃうんですけど(笑)

 本作『デジャヴ』も、(ネタバレ禁止令が出ているのであまり詳しくかけませんが)、結末近く、主人公は、大きな自己犠牲を伴う選択をします。しかし、そこにはそのリスクを払ったことを上回る、大きな宝物を得て物語りは完結することになります。
 この「何かを捨てて、違う宝を得る」というこころの作業が人間には気持ちいいのです。
 今回は、その機能が、ものすごくうまくいってます。(『アルマゲドン』とか『パール・ハーバー』みたいにわざとらしくないんですよ)。デンゼル・ワシントン演じる誠実な刑事に見る人はみな、感情移入するし、彼がある犠牲的な行動をしたときには皆、ものすごい痛みを伴う。そのあと、あっという展開が起こる。
 映画というのは多かれ少なかれみなこういう展開をたどるのですが、そこにダイナミックなストーリー構築や、彼とトニー・スコットお得意の大仕掛けがふんだんに盛り込まれているので、動かされる感情の幅も大きいのです。とても満足感があります。
 
 ちなみにもう一つ、ジェリー・ブラッカイマーは時代を読むのがうまいなあと思わされるところは、この船を爆破したテロリストの正体が、当然ながら(?)、イスラム系なんかではない、と、きっちり示しているところです。最初に爆破された船はアメリカ軍人が多数乗っていたので、最初は、そういう犯人像なの? と観客に疑わせておいて、やっぱり違う、という方向に持っていく演出もさすがです。何かにおびえた、世界の閉じた、周囲から見ると特にハンディキャップを背負っているようには見えない人間。そういう人間が、テロを起こすんだっていうことを、ジェリーはさらりと入れています。

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「今週 いちばん癒せる映画」!」 vol.14  発行32部
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2007.3.9 発行
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# by ropponguimovie | 2007-03-25 11:42

今週、いちばん癒せる映画vol.13『パラダイス・ナウ』他

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 今週は、他の週だったらイチオシ! という映画がたくさんあって、
評論家泣かせの週です。
『約束の旅路』『ラストキング・オブ・スコットランド』『サン・ジャックへの道』『絶対の愛』…

 そのうち、『約束の旅路』は、こちらに感想を書いていますので、よかったら見てください。
http://rmovie.exblog.jp/5936134/

 さて、今回の1本として選んだ『パラダイス・ナウ』、実は一昨日見た、すべりこみでした。

 なかなか時間が取れなかったのですが、ずっと気になっていました。
 試写状が、とても印象的だったのです。

 http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD10285/index.html

 こちらの写真を見ていただくとわかると思うのですが、『モッズ』っぽいというか、1997年のダニー・ボイル監督の名作、『とレインスポッティング』を思い出させますね。ちょっと、虚無的というか、生きること投げちゃってるというか。

 ところが、彼らは虚無的どころではないのです。「虚無」って、生きることが保証された環境の中で「生きることがむなしい」とかいってるから「虚無」なわけでしょ。ところがこのふたりはそもそも生きることが保証されていない。実は、この、ちょっとオシャレで、しかもハンサム(だ、と、私は思う)な二人が、実は自爆テロリストなのです。
 彼らが頭を丸め、ひげをそっているのは、ユダヤ教徒(っぽくも見えないけど、無宗教風? とにかくイスラム教徒に見えないようにする)として敵地に乗り込むため。このスーツの中に、腹巻みたいにぐるぐる巻きにした爆弾を巻きつけています。

 途中、恋人が出てきますが、彼女もとてもきれい。ヨルダンはイスラム国の中でも服装がそんなに厳しい国ではないので、彼女は髪を隠していないし、ボタンを二つあけたブラウス姿。途中、彼らの行為を敢然ととめようとする姿は、とてもりりしくてカッコイイ。「女性らしさの枠の中に押し込められたイスラム女性」のイメージを完璧に超えています。

 この映画は、自爆テロリストの決行前の48時間を描いているのですが、それが、政治的メッセージではなく、個人の人間的心情として主人公達に迫っています。

 それが、こういうスタイリッシュな映像に表れている気がします。
 つまり、この映画が、自爆テロリストの話である、というのは、「たまたま」なのですね。こういうキャラクター達を使って、まったく別のドラマを撮ろうと思えば撮れる。
 そこに、一種の救いがあるように見えるのですよね。

 話がちょっとユーモラスに描かれるところも、『トレインスポッティング』に似ています。胸にはりつけたテープの具合がうまくいかなくて、「べりっ」とはがすのですが、これが痛そう(笑)(あっちの男性は胸毛がいっぱい生えてるからね…)。
 しかし「今度からもっといいテープを使ってくれ」と文句を言うと「2度目はない」と、にべもない返事。笑えるようで、笑えないようで。

 『トレインスポッティング』は、仕事がない、という環境の中で、「死にたいけど死ねない」という感覚を抱えた若者達が、最後は、生の方向に向かうところで終わっています。そして、この映画は、「死にたくもないけど死なないといけない」という運命に巻き込まれた若者が、死なないようにとあれこれ試み、しかし、最後は…という構成になっています。

 生きる死ぬを、「政治」「国」といったシステムのレベルで語らず、あくまで個人のレベルで語っているところに、癒しというか、救いがあるような気がします。
 
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# by ropponguimovie | 2007-03-09 22:32 |

今週、いちばん癒せる映画vol.12『パフューム ある人殺しの物語』

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 発行が1日遅れましてすみません…

 今週オススメの映画は、トム・ティクバ監督の最新作『パヒューム ある人殺しの物語』です。

 ちょっと関係ないところから入りますが(いつも?) 最近、実用書を読むのが楽しくてしょうがないです。

 人生全般にまつわる自己啓発から、「トップ営業レディのセールストーク」まで。

 最初のうち、「ハウツー本を読みまくりって、ださい?」と思ってました。
 しかし、ほどなくして、これは、素晴しい行為だ! と思い始めました。

 なぜなら、私は、これらの実用書を文学として読んでいる、ということに気がついたからです。「本人が書いている実用書は、へたな小説より『冒険物語』としてよっぽど面白い」と思っているのです。
 村上春樹が『羊をめぐる冒険』を書いたように、彼らは『セールスをめぐる冒険』『マーケティングをめぐる冒険』『結婚相手さがしをめぐる冒険』を書いているのです。

「物語の定義」って、ご存知ですか?

 いくつかあるのですが、よくできた物語の定義として、「物語は、痛みをともなって語られなければいけない」というのがあります。(参考文献「神話の法則 ライターズジャーニー」)
 体験者が書いたハウツー本って、この法則にのっているんですよ。自分の失敗がたくさん書かれているし、そもそも「自分の失敗も公開して、みんなに幸せになってもらおう」という発想そのものがかなり痛い。
 渡辺淳一が自分の経験を屈指して『愛の流刑地』を書いたように、みなさん、『金の流刑地』『結婚の流刑地』を書いてるわけです。
 いや、それが事実だという点で、それは、想像で補完している小説よりもっと痛い、となれば、実用書の方が面白いにきまってるじゃありませんか。

 世の中にこれだけ痛くて楽しいハウツー本があふれてくると、小説は、ちょっとやそっとのことで太刀打ちできなくなります。その「うそっぱちさ」が、実用書を上回る痛々しさを持っていないと、面白くない。

 そして、原作『パフューム』は、その、「実用書を上回る痛々しいうそっぱち」なのです。

 親の顔を知らずに育ったある少年には、誰にも真似できない才能がありました。それは、嗅覚が異様にすぐれているということ。彼はその才能を生かして香水職人になりますが、彼にはどうしても再現したい香りがありました。それは、昔、その匂いを好きになってしまったが、勢いあまって殺してしまった女の体臭です。人殺しを犯しても、彼に罪悪感はありません。それどころか、人は死ぬともうステキな匂いがなくなってしまうことが、悔しくてしょうがありません。
 そこで彼は、年頃の美しい娘を次々と殺し、そのなきがらから香料をとる、という荒業を始めます…。

 この映画の中では、この恐ろしいストーリーは前半部でしかありません。後半、この愛のかけらもないろくでなしの行動が、なぜか、周囲の人々に「愛」を及ぼしていく、という、妙というか、皮肉なところに、この話の特徴があります。

 さて、再び、実用(自己啓発)の話に戻ります。

 「こうなりたい」と願っていると、いつかその通りになってしまう、という話は、聞いたことがありますよね。
 反対に、「絶対にこうなりたくはない」と思っていても、やっぱりその通りになってしまいます。

 なぜでしょうか。

 それは、「こうなりたい」であっても、「こうなりたくない」であっても、そのときの感情の強さは、同じだからです。感情が大きくふれたときに、人の行動に影響を及ぼすのです。
 針が、プラスの方向に振れるか、マイナスの方向に振れるかは関係ないのです。問題は、その絶対値の大きさ、というわけです。

 この考え方でいくと、「人を愛している」か「憎んでいるか」という分け方は、できない、ということになります。
 愛にしろ憎しみにしろ、「どれだけのコミットを望んでいるか」=愛ということになるわけです。
 彼の、殺意というコミット欲は、それを他人に映したとき、愛というコミット欲に変わってしまうのです。自分が思っている世界観を他人が演じる「鏡の法則」というのがありますが、彼の鏡は、反転する、という奇跡が起こるわけですね。

 これは、現実の世界ではしょっちゅうあることとはいえないけど、でも、ときどき起こります。奇跡は人に希望を与えます。でも、ここまで大胆な価値変換は、現実で起こるのは難しいですね。
 やはり人はときどき、「よくできた嘘っぱち」に触れる必要がある、と思わさせてくれる作品です。心をリセットするために。

  さて、この話は時代劇で、みんな長い裾をひきずっているわけですが、『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクバ監督によって、お得意のCGを使ったスタイリッシュな映像になっていいます。『マリー・アントワネット』もそうですが、コスチューム・プレイを、現代的な音楽や映像で軽やかに見せる手法が、今後増えてくるかもしれません。

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# by ropponguimovie | 2007-03-04 00:28